その他その他

ストーリー

●アンデス・オカイナ族の神話
人間がまだ土を食べていた頃にひとりの娘が蛇と結ばれ、蛇の子供を産みます。その子供は成長すると一本の樹となり、マニオクやトウモロコシを実らせます。そして人間たちは食物に困らない生活が送れるようになりました、という一種の創世神話です。

●ケニア・メル族の神話
天地の初めの頃、メル族の先祖は自分たちの島で平和に暮らしていたのですが、赤い服を来た人々に侵略され、島から脱出します。そして海を旅する間に赤い人、黒い人、白い人、というふうに肌の色が変わって行き、黒い肌の人だけがケニア山の麓に辿り着いて、定住しました、という「何故いろいろな肌の色をした人間がいるのか」という子ども達の素朴な問いかけに対する答えとして用意されていたのだろう物語です。

●登別アイヌの神話
ショキナという大クジラの退治を命ぜられた川の神様が、自分が腰に刀を挿しているのを忘れてショキナとののしりあい、負けてしまいます。けれど、他の神様に「お前は刀を持っているぞ」と教えられ、ようやくその刀で大クジラを退治します。――これは登別の海岸にあるクジラ山が何故出来たのか、という「ものの起源」を語る神話です。

●中国・ヤオ族の神話
昔、夜空には星がなく、大きな月だけがギラギラとした光を投げ下ろしていました。そのせいで人々は暑さに苦しみ、畑も荒れて、みんな困っていました。そこで弓の名人のヤーラという猟師が、大虎の尻尾と妻の髪の毛で作った弓で月に向かって矢を放ったのです。その一撃を受けて月は砕け、その破片が星になり、月も穏やかな光を投げ下ろす美しい姿に変わったのです。と、語るこれも「お星さまはどうやって出来たの?」という幼子の問いかけに答える「起源神話」です。

●ソロモン諸島の神話
むかしむかし、ある島の酋長は、となりの島へと戦争をしかけようとしていました。しかしいざ出陣という時になって嵐が襲ってきます。戦争に使うカヌーが流されては大変と、酋長は兵隊たちにやしの木にロープでカヌーをつなげ、と命じます。そして嵐が通りすぎ、改めて出陣! ところが今度はどんなに漕いでもカヌーが前に進みません。やしの木とカヌーをロープでつないでいたことを忘れていたのですね。酋長は、これはきっと海の神様が怒っているのだと思い、戦争をやめてとなりの島と仲良く暮らすことにしたのでした。――という落語的な「愚か者のリーダーが結果的な平和をもたらす」という寓話です。人間、あまり頭が良すぎてもろくなことにはならない。お馬鹿なくらいでちょうどいい、という南の国らしいおおらかな人間讃歌でもあります。

解説

さまざまな国や民族の昔話を紹介しながら、手塚治虫が語るのは、物語をつむぐ人間のイメージの豊かさです。トウモロコシの起源が蛇と人間の娘との結婚にあり、蛇を殺してしまった人間たちに「必ず訪れる死」という呪いがかけられる、という神話などは、トウモロコシひとつから「生」と「死」、さらに「自然神(アニマ)」と「大母地神(ガイア)」についても空想の翼を広げて行ける想像力の素晴らしさを教えてくれます。稀代のストーリー・テラーである手塚治虫だからこそ、神話の中にひろがる物語の魅力に圧倒されて、このような作品を手がけたのでしょう。「想像」は「創造」。さまざまな起源神話や創世神話は改めてそれを見せ付けてくれます。

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