悪いドラゴンがお姫さまをさらって行き、正義の騎士がドラゴンに戦いを挑んでやっつける。そしてお姫さまを救出してめでたしめでたし。というのはお父さんの時代の話しだよ。と、そのドラゴンは人間たちを襲うことなんかにぜんぜん興味を持たないお人好し。ところが彼はあるとき、お姫さまと出会い、恋をしてしまう。その愛しいお姫さまが悪い騎士にさらわれてしまったから、さぁ大変! 正義のドラゴンはお姫さまを救出するため、悪い騎士に戦いを挑んで行きます――。
物語の基本的なパターンをあべこべにひっくり返してみた、そんな作品です。そしてあべこべにしてみたら、いままでの物語とはまた違った新しい魅力に満ちたおとぎ話が誕生しました。新しい魅力、それは「いい者」と「悪者」なんて、姿形じゃ決められないよ、ということ。ドラゴンにだって、ちゃんとドラゴンのハートがあるんだよ。手塚治虫はこの物語を通して、さながら正義の騎士のように、数々の童話の中で不当に悪者扱いされているドラゴンたちを救ってあげているのですね。