白雪姫というとてもきれいなお姫さまがいました。けれどお母様が亡くなり、新しくやって来て継母となったのは女の魔法使いでした。魔法使いは魔法の鏡に「世界でいちばん美しいのはだあれ?」と尋ねると、「それは白雪姫です」との答え。これに怒った魔法使いは白雪姫を淋しい森に追放してしまいます。森の中で泣いていた白雪姫は七人の小人に助けられますが、白雪姫がまだ生きていると知った魔法使いは毒りんごで彼女を毒殺してしまうのです。嘆き悲しむ小人たち。そこに隣国の王子さまが現われて――。
物語の文章は宮脇紀雄氏が担当し、手塚治虫が絵を担当しています。原典ではあくまでもプライドの高い継母なのですが、それをわかりやすく女の魔法使い、と変更しています。子供たちに「継母=悪い人」というイメージを与えたくない、という配慮でしょうか? また原典では小人たちが家を留守している間に白雪姫が勝手に入り込んでベッドで寝てしまうのですが、それじゃ不法侵入じゃないかと眉をひそめた方がいたのでしょう。ここでは白雪姫は小人たちに「どうぞお入りください」とお客さまとしてちゃんと招かれてから家に入っています。白雪姫は継母の手にかかって都合三回も執拗に命を狙われ続けるのが原典ですが、これも毒りんごだけに省略されています。さらに死んだ白雪姫が蘇るには王子さまからの魔法のキスが必要なはずですが、ガラスの棺を運ぼうとしていたら、それが樹の切り株にぶつかって、そのショックで白雪姫が目を覚ます、というふうに変更されています。子供が読むものなのにキスだなんてはしたない! と誰かが口を出したのかもしれませんね。原典を勝手に語り変えてしまうことのほうがよっぽどはしたないことなのですが、子供たちは無理矢理にでも無菌状態に保っておきたい、という時代の産物と言えるでしょう。