町の虫たちは鈴虫のすずちゃんが奏でる鈴の音を聞くと、それだけで幸せになれるし、一日の重労働も気になりません。すずちゃんも自分の演奏する音楽が人々を喜ばせられるのがしあわせでした。ところがある日、お城から音楽会の誘いが来ました。いちばん素晴らしい音楽を奏でたものを城に住まわせるというのです。すずちゃんはコオロギや他の虫たちと競わされ、一等賞になります。お姫さまとして城に住みはじめた鈴ちゃんは毎日鈴を奏でますが、町の人たちに逢わせてもらえないので淋しくてたまりません。町の人たちもすずちゃんの音楽が消えてしまって淋しくてたまりません。そしてついに町の人たちはお城から鈴ちゃんを奪い返そうとするのですが・・・。
さながらイソップ童話のような見事に完成した童話となっています。音楽がどれほど人の心を潤し、生活にかけがえのないものなのか、ということをテーマとして語りながら、動物たちの愛らしい姿も魅力的に描かれています。「主人公をメスの鈴虫にしましたが、鈴の音を奏でるのは本当はオスだけです」と最後に断り書きが律儀に入っているのも、昆虫マニアの手塚治虫らしいところだなぁとニコニコさせてくれます。