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ストーリー

真冬の寒い寒い日に、穴の中で生まれたキツネの赤ちゃん、くろ耳ちゃん。両親ギツネは冬のさなかに赤ん坊を育てられるのかどうか心配でした。やっぱりお母さんギツネは栄養が足りなくてお乳が出ません。お父さんギツネは近くの炭焼き小屋に子供の頃一緒に遊んだ人間のテッちゃんが久しぶりにやってきているのを思い出します。テッちゃんならきっと食べ物を分けてくれるだろう。お父さんギツネはそう言って炭焼き小屋に向かいます。小屋にいたのは立派な大人になったテッちゃん。お父さんギツネはテッちゃんが小屋に猟銃を置いているのを目にします・・・。

解説

寒い冬。動物たちがどんな苛酷な環境の中で生きなければならないのかを、ペーソスとユーモアの中に描き出しています。ことに10年ぶりに再会したテッちゃんとお父さんギツネのエピソードや、赤ちゃんを生き延びさせるためにお母さんギツネがウサギをしとめる場面、その時のお母さんがとても怖い顔だったといって泣き出してしまうくろ耳ちゃんの姿などには思わずハッとなってしまうほどの残酷さを感じさせます。そんな場面をさりげなく語って見せる手塚治虫は、動物が生きて行く「人間もいる世界」の現実や「生き物が互いの命をぶつけ合いながら生きて行く自然」というものから子ども達の目を逸らさせてはならない、という想いが伝わってきます。そう、ファンタジーの名を借りて現実を砂糖で包んでしまうような偽善は、手塚治虫が生涯を通して否定していたことなのです。つらい現実を見据えて、その上で夢を語ろう、という作家としての姿勢が、こんな小さな短い絵物語の中にもはっきりと現われています。

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