イラストレーターとして、「おでんくん」を生み出し、作家として著書「東京タワー〜オカンとボクと、時々、オトン〜」、また音楽活動や主演映画「ぐるりのこと。」が現在公開中とマルチの才能を発揮し続けているリリー・フランキーさん。 そのリリー・フランキーさんと手塚キャラのコラボレーションから生まれた「アトムくん」。
 現在ソフトバンクからキャラクターコラボ携帯電話が発売中で、デコメ・キセカエなどの携帯コンテンツも配信が始まっている。
 その「アトムくん」が出来上がるまでのいきさつやキャラクター設定、またその世界観に込められた意味や手塚先生に対する思い、さらに今後の展開にも期待をしてしまうインタビューを大公開!

■手塚作品とのつながり

編集者(以下 編):今回の企画はこちらからお声掛けさせて頂きましたが、初めて聞いた時の率直な感想を教えてください。
リリーさん(以下 リ):正直びっくりしましたけどねー。 すごく嬉しい事だけど、やっぱねー…アトムみたいに歴史のあるものをオレがやっていいのかってのもあるし、ファンの人の感情を逆なでしないようなものにしないといけないなあと思いましたけどね。

編:ブラック・ジャックだったり火の鳥だったり元々手塚作品が好きだという事を伺っていたんですが、今回の話を進めるに当たり思い入れみたいなものはありましたか?
リ:一番最初にW3をアニメで見たり、ジャングル大帝をアニメで見たりとかしてて、そのうち自分でマンガを買うようになって、チャンピオンのブラック・ジャックはリアルタイムで読んでるんですよ。
 子供のころからほんとにずっと手塚先生の本って読んでたものだったし、そういう歴史と自分に接点があるっていうか出来るという事がすごいなーって。
リ:そうそう、色んなインタビューでいつもブラック・ジャックになりたいって言ってるんですよ。
 「本職はなんですか?」って聞かれて多分オレの事作家だって思ってる作家の人はいないし、イラストレーターだと思っているイラスト協会の人もいないし、ミュージシャンにしてもカメラマンにしてもそうだけど。
 本職の人よりうまくなればいいやって思ってるから、免許なんか要らないって言ってるんですよ。
 ブラック・ジャックと一番違っている所はギャラもそんなに高くないし(笑)

編:自分が描いたことによって改めて気づいたことや気をつけたことはありますか?
リ:年齢によって手塚先生の作品の感じ方って違うし、どのマンガでもそうですけど、改めてエネルギーとか重厚感みたいなものとかを感じてるし、それとなんかどの時代の話にしても絵にしても古くならないというものすごさもありますね。
 あと、手塚先生の絵自体が完成しているから、もうなんだろう…リミックスができないんですよねー。
 自分が描いたっていうものになりようがない。でもまんま描いてしまったら意味がないから…でもなるべく崩さないように自分の絵にするようにっていうのは考えてました。共通して言えるのは全部手塚先生の絵から緊張感とか躍動感を抜いたような絵になったんだと思います(笑)
 すごい強そうな奴もどこかこう間抜けな感じになっていると思うんですよ。それは「アトムくん」もそうだし。

■アトムくんが出来るまで

編:最初のアトムくんが出来るまでいろんなパターンを描いたりしたんですか?
リ:今回描くにあたりあえて自分の記憶の中の曖昧な部分で書こうと思って、地上最強のロボットの本とかもがっちり読み返しちゃうとそのままなぞるなーと思って読み返してないんです。
 元のキャラクターだったり、絵の設定が完成されてるからホントに印象だけで描こうと。
 描きだすまではどういうのにしようかと悩んだし、アトムに関しては色々描きましたね。一番シンプルなものになりましたけど。それ以外のキャラクターに関しては、アトムに合わせて描いていくという感じで。
 イメージとしては、遠くから見た時に一応アトムに見えるって言ったら変だけど、アトムに見えるっていうよりもよく見たら何か違うなっていう位で良いって思ったんです。
 そう、やっぱりそれが一番。
 音楽で他の人の曲をカバーする人の事とか考えても、原曲に忠実って言うのが一番リスペクトを感じるんですよね。原曲に忠実に演奏して歌声が違うっていうのが一番カバーとしてもいいかな〜。
 あとはその元の曲が作られた時と、今自分がいる時とサウンドが違うというか音色が違うとかミキシングが違うっていうだけでいい。
編:アトムくんのキャラクターが出来上がって色んな方々に見てもらって、唇だとか体型だとかを一目見て、分かる方はリリーさんの描いたキャラだなと分る方が多くて、客観的な印象として「こんなに変わったんだ!」っていう方が多かったんですが、
リ:あーそうなんですか…
編:リリーさんの考えとしてはオリジナルの鉄腕アトムに近いという感じでしょうかね?
リ:(力強く)ていうか、最大限自分らしさを削っていると思っています。
 でも、唇とかこれにしないとホントにオレが描いた意味がない!腹とほっぺと唇だけだと思います、自己主張しているのは。(笑)
 あとやっぱり、立体になった時のかわいい形っていうのがありますね。
 (フィギュアを見ながら)これ、原型作った人相当気合い入っている感じですもんね。
 オレが思っていたホントのむっちり感っていうかそういうのが出てますね!
 オレが描く絵のむっちり感って、ちょっと失敗するとお相撲さんみたいになるんですよ。(爆笑)
 小憎らしいっていうかね(笑)、そのお相撲さん感が無いんですよ。このフィギュアには(笑)

編:出来上がったアトムくんや他のロボット達の個々のキャラクターについては?
リ:アトムの時代よりも進化した時代を描こうと思ったら、やっぱロボットは人型じゃなくなっているはずだなとは思っているんですけど、でもやっぱり人型にしたかったんですよ。ロボットだけど、人間っぽさというのが全部つまっているような。
 鉄腕アトムの能力はもちろん全て継承してはいる。継承してさらに能力も高くなっている。
 だけど、闘う事を拒否しているというか、暴力的な解決を求めていないという感じですかね。普段は英雄じゃないアトムであってほしいですよね。
■アトムくんの世界観

編:そんなこんながありながら今回の「アトムくん」シリーズが出来たわけですが、リリーさんが思う設定みたいなものがあれば教えてください。
リ:設定っていうよりも、手塚先生が実際考えていた世界と現代がさほど変わりない。ホント変えにくいのは手塚先生が想像していた未来が今来ているから、想像通りの世界になってるから、それに足していくとすれば深刻さしかないんですよね。だけどそれだけじゃ救われないから深刻さと希望みたいな…
 1個のパンを取り合って殺し合いをするみたいなそういう陰惨な世紀末はいらないっていうか、世紀末だから終わってしまうというのでは無くて、終わらせない方法っていうのがこの物語のなかでは多分どんどん見つかっていくんだろうなと。

編:以前ちょっと聞いていた話のイメージというのは、どんどん開発が進んでいってどんどん人間やロボットが生きづらくなってるというお話があったかと思うのですが、やはりそういったイメージというのは持たれていますか?
リ:そうですね。オレの中では、月にもあと地球にも、もう人とかロボットが住める場所が限られていて、人が住んでいる所は、ドーム状になっている所だけで、もう外気に触れられない。ロボットくらいしか歩けない。ロボットですら生きづらくなっているというイメージ。
編:手塚先生もエコというか、このまま発展を続けていくと大変な事になると言うメッセージを発信していたと思うんですが、リリーさんのオフィシャルサイトでもチャリティーオークションをやっていたり、 レゴの世界遺産チャリティに参加されたり、坂本龍一more treesに賛同されたりと、とりわけ環境問題について多くの活動に参加されている印象があるのですが、そのあたりの意識というのは前からもっていたんですか?
リ:その意識はすごくありましたね。
 ちょっと前まではエコロジーに対する事の伝え方がすごく間違っていたと思ってたから。
エコロジーっていうのが、なんかちょっと小金持ってる人のアイデンティティを満たすためのもので、「“マイ箸“使ってるんだよ」って言ってる人が家建てたときにウッドデッキのベランダとかで嫁さんと無農薬のワイン飲んでルッコラ食ってるとかってなんか違うんじゃないのかなって。
 (エコロジーの)最初がそういう所から始まっているからみんなちょっと嫌悪感を持ったと思うんです。
オレはもっとそんなもんじゃないと思ってるから。一番大切な事は、家賃2万円の人がどうエコロジーに参加していくのかみたいな事だったりとか、節約とかじゃなくて、もうちょっと人とか地球をちゃんと考えるという事なんですけど。
 もっとロマンチックに、もっとそんな切実じゃなくても、何かがみんなの意識の中にあるというか… とにかく今はすごい個人主義だと思うから。
■今後の展開について

編:最後に、これだけの内容と世界観のお話を聞くと次の展開を期待してしまうんですが。
リ:やっぱ手塚先生がアニメーションに思想性というものを吹き込んだ事でその後の、宮崎駿さんとか皆さんそうだろうけど他の人が持論構築された自分の思想性というのを、子供が見るアニメーションにしていくっていう、すごく何層にも日本のアニメ作品の深みが出たと思うんですよね。
 もし、もうちょっと違う感覚で手塚先生が同じ物語を作っていたら、もっと消費されていたのかも知れない。思想があるからというのは何か嫌な言い方かも知れないけど、何か問題意識をもって伝えていく、伝え方を最高のエンターテイメントにしていく。
 なかなか一番折り合いがつかないものを僕らは子供の頃から自然に見たっていうかんじかな。

 手塚先生の作品が今の時代になっても古くならないっていうのは根底にある手塚先生が伝えようとしていた事が解決されていない事もあるしそれが永遠のテーマになるのかも知れない。
 ロボットだけど今の時代の人間が抱えている僕らが解決しなきゃいけない問題を当然このひとたち(アトムくん)も抱えているっていう風にしたいですね。
 その感じが手塚先生の色んな作品にあるメッセージだと思うし、その裏テーマか何か分らないですけどそれを擬人化したり色んな事をしていきながら物語を作っていけたらと。
 今まで言ってきたことと矛盾するけど、この人たちが戦っている映像も見てみたい気持ちはあるんですよ(笑)

編:今後ともたくさんのものが出来てくるのを、楽しみにしています。今日は長い間ホントにありがとうございました!
この企画最初の商品化になった携帯電話をもってはいポーズ!
(C)Tezuka Productions/Lily Franky
●ソフトバンク「fanfun815T」に関する詳細はこちら
http://mb.softbank.jp/mb/special/815T/fan/astroboy/index.html