―本に使用した『新宝島』の図版は、ご自分でお持ちの本からですか?
野口:そうです。『新宝島』はとにかく何十万部も売れて、後の方になると描き版の描き版になって、元の絵と全然違ってきちゃうんですよ。私が持っているのは発売された年の版なので、まだ大丈夫だと思うんですけど。ちなみに私のこだわりの一つが、この背表紙に使ったイラストです。原本の表紙は酒井七馬の絵だからダメだ、ということで(講談社全集版の)先生の絵を使ったんです(笑)。
―本に使用した『新宝島』の図版は、ご自分でお持ちの本からですか?
野口:
D・W・グリフィスの『東への道』ですね。川に流されたピートが滝に落ちる寸前でターザンに助けられる場面は、この映画からとっています。
それと、手塚漫画のトレードマークである群集シーン。先生は、1コマに何十人も群集が出てきて、それぞれ好き勝手なことを言ってる、というのが描きたくてしょうがなかったわけですよ。それは『親爺教育』(ジョージ・マクマナス著)という外国の漫画の影響である、と先生本人が言っているんですが、実はこの『親爺教育』では、せいぜい1コマに7〜8人がいるだけなんですよ。だから、先生は現実をどんどん自分の記憶の中で増幅させているんです。まさにそれは天才の証だと思うんですけどね。
また、『突喊居士』(ミルト・グロス著)という漫画は、一切セリフや文字のない作品なんですが、この影響が最初にあらわれた手塚作品が『新宝島』で、先生はこの無言の描写というのをやりたかったんですね。それ以前の漫画では、文字のない状態が2コマ続く、ということはまずありえなかったんです。映画的と言われる『スピード太郎』でも、セリフのないコマが2コマ続いている箇所はありません。戦前の漫画では、それが約束なんです。ところがそういう違いについては誰も指摘しないで、ただ「真似だ」って言うんですね。
それから、先生の作品に出てくる摩天楼の描き方。これは『親爺教育』と『突喊居士』の描き方が合体しているんですが、これも図版を使って検証しています。
ちょっと本のネタバレをしゃべりすぎましたかね?(笑)
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