アドフルに告ぐ ポスター

12月に天王洲銀河劇場で公演が決まっている手塚治虫原作の「アドルフに告ぐ」。
それを演じる劇団スタジオライフは演じる団員全てが男性と言う編成で、数々の舞台をこなし高い評価と話題を集めている。
そのスタジオライフの紅一点で、全ての舞台の脚本・演出を手掛けている倉田淳さんに、公演2か月前でしかも劇団の新人公演本番というハードスケジュールの中、劇団についての事から、作品との出会い、「アドルフに告ぐ」をどう描くかまでインタビュー。

――作品との出会い

劇場は2年前、作品は1年前に絶対決めなきゃいけない。前はこんなことはなかったんですがこのごろ特にそうなってきていまして。
自分の情報とか好みだけだとどうしても偏ってしまうので、絶えず色んな人に何かいい作品があったら教えてって聞いていた中の一つとして勧められたのが「アドルフに告ぐ」だったんです。

もともと「死の泉」「パサジェルカ」(この2作品は過去公演している)とか、小さい頃にアンネの日記を読んでからかも知れないのですが、ナチスドイツ時代の極限状態での人間心理、どうしてこうなっちゃうんだろうという疑問、人間の持つ二面性とか、怖れとか、究極のせつなさとか心の動きとか色々と感じたり考えたり興味があって、それを題材に舞台化したいと思ってしまうんです。
特に人生のテーマにしようと思っているわけでは無いんだけれど、絶えず自分のアンテナに掛かってくるんです。

心が寄り添ってしまった瞬間に、“この作品やりたい”って

アドルフもそうですが、登場人物の置かれている状況やどういう人生を歩んでいるか、せつなさや孤独感に自分の心がグッと寄り添ってしまった瞬間に、「あっ、もうこの作品は演りたい」って思ってしまうんです。
アドルフの場合、私はカウフマンの人生ってたまらないって思っちゃったんですよね。
そういうふうに心がフッと寄り添ってしまう作品に出合うと、もう演りたくてたまらなくなってしまいますね。
実はアドルフは今年できるかな?来年になるかな?という話も出ていたんですが、“もういい。絶対今年やる”って決めて、お話をもってきたら80周年という事だったので全くたまたまの偶然でびっくりしたんですよ。

――劇団スタジオライフを紹介するときに、よく出てくる表現に男版宝塚、公演作品に萩尾望都先生の「トーマの心臓」がある。宝塚も萩尾先生も、手塚ファンならもちろん知っている手塚治虫と関わりの深い劇団であり作家。トーマに出会っていなかったら、劇団の今の状況や方向性には絶対になっていなかったとまで言う辺りを聞いてみた。

『なんでギムナジウム物をやらないの?』

ちょうど劇団創設10年目に「トーマの心臓」に出会ったんですが、うちが男性ばかりの劇団員で構成されているものですから、『なんでギムナジウム物をやらないの?』とおっしゃって下さる方がいたんです。知らなかったから質問した所、『あなた萩尾望都を知らないの?』と言われまして、お名前は存じ上げていますが作品は読んだことが無いんです。って言ったら「トーマの心臓」を貸して下さったんです。それまで、あまり少女漫画って読んだことが無かったんです。

読んでみたら、冒頭に書いてあるトーマの遺書というかあのメッセージから一気にドーンとその世界に入ってしまって、これは文学だと思いました。
作品の世界観にびっくりして、でも読みながら仕事柄舞台になっているイメージがワーっと浮かんできて、絶対舞台化させて頂きたいと思ったんです。
ただ、どこに話を持っていってどうすれば良いのか全くわからなくて、ダメ元でいける所まで当たってみなければ先に進めないと思ったもんですから、企画書作って飛び込みで小学館に行っちゃったんです(笑)。
そしたら運よく編集長に会ってもらう事が出来て、萩尾先生にも口添えして頂いて、めったに許可は出されないと伺っていたんだけど、どういう訳か許可が頂けて舞台化が具体化して行きまして、その後色んな原作物も扱わせて頂く今の道に入っていったんです。
ですからトーマに出会っていなかったら、多分今、この状況にはなっていないですね。

性別よりも心

男版宝塚と言われるのも見て頂いた方とかマスコミの方につけて頂いたので、特に強く意識していないですね。
劇団結成当初は女性も2人いたんですが、1人はダンサーになりたいからという理由で、そしてもう1人も本番2週間前にいなくなっちゃったんです(笑)。本番まで時間が無くどうしようもないっていうので一番若くて細面の男性の俳優にセーラー服着てもらってやったら、観客動員数が急に増えたんです。あー世の中って面白いな〜って思って(笑)。
それから男性だけの今の方向になったんです。何か流れのままここまで来たって感じで、男性だけでやるからとか意識したこととか無いですし、男性が女性役をやるんだけれど、声を作らないし、型も無いし、シナを作る訳でもないし、性別よりも心という所を入口にして考えていきます。
男役、女役が決まっている訳でもないんです。
だから私たち中にいる人間は男版宝塚とは思ってないんですよ。
宝塚みたいに歌えないし踊れないし(笑)、あの歴史と観客動員の数にはとてもとても。。。

『ヒットラーをやりたいと申告してきているのが何人いる事か(笑)』

キャスティングについては主役と狂言回しの峠は決まっていて、それ以外は何となくイメージの中ではあるんですが、やはり脚本の形が出来上がってきてからとは思っています。
ただ、ヒットラーをやりたいと自己申告してきているのが何人いる事か(笑)

アドルフに告ぐ
◆インタビュー当日お持ちになっていたアドルフに告ぐ

今の状況は、うじうじと悩んでいる所です。原本がしっかりありますので、内容を全部やらせてもらったら、2日か3日かかってしまうので(笑)、それを時間内に収めるのにいつも凄い苦労するんです。。。
本の入口がアドルフ・カウフマンに沿って行ったので、構想としてはそのラインで進めようと思っています。2人の少年がどういう風に時代ともう一人のドイツに住むアドルフによって運命を翻弄されて行ったかということを追っていくという芝居になって行くと思います。

“正義”の名のもとに、国家権力によって人々の上に振りおろされた凶刃をぼくの目の黒いうちに記録しておきたいと願って描いたのが『アドルフに告ぐ』なのです。

この作品の中のたった少しだけを切り取らせて頂くのだけれど、作品に対する手塚先生のメッセージだけは絶対に織り込ませて頂きたいと思っています。

先生が大事にしてらっしゃったのは、人間の命ですし魂だしその命が大事だからこそ、それをむやみに殺してしまうような戦争は絶対許せないという事でいらっしゃるんだろうなと思うんで、そのことは大事に伝えたいしお客様と共有出来ればいいなと思います。

まだ結論が出ていないし難しいのですが、もっと現代につなげなければとお考えになっていたんだろうなーと思いますので、ほんとに何百分の何千分の1かの事でも、私たちが出来る限りのことを(アドルフに告ぐの狂言回しの)峠さんの後で伝えていかなければいけないんだろうなと考えています。

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――劇団の中では第二次世界大戦の悲劇の物語の舞台化という事では、今回3部作の最後という位置づけという「アドルフに告ぐ」。手塚治虫の青年マンガ作品の中でも、ひときわシリアスでハードな社会派ドラマを文芸耽美な作品を次々舞台化してきたスタジオライフがどう描くのか。
注目の公演は12月20日から。

詳しくはこちら:http://www.studio-life.com/
(劇団スタジオライフオフィシャルページ)