手塚作品の世界をよりダイナミックに――! 白黒のペン画を基本として残された手塚漫画約15万ページを、手塚プロダクションの監修でカラー化してゆく事業が現在、着々と進行中です。月に千ページのペースで、順次作品に着色していきますが、全ての原稿に色をつけるのにはなんと5ヵ年の歳月が必要とのこと。
 着色を施された作品は現在、携帯電話サイト「まんがの虫DX」で読むことが出来ます。今月の虫ん坊では、カラー化の現場担当者、色の指定を担当する川添と、監修を担当する野村に取材、裏話を聞きました。

カラー漫画では、川添さんが色指定、野村さんが監修というお仕事を受け持っていますが、他にはどのような仕事をしているのでしょうか。
川添:普段は仕上部と言って、アニメーションの色に関する部署で仕事をしています。仕上部では、キャラクターの色設定やシーンごとの色指定、特効(特殊効果)をつけるなどの仕事をしています。
実際に色を塗る作業等は別のところでやるのでしょうか。
川添:そうですね。実際の色付けは北京スタジオがします。
野村さんは虫ん坊の投稿コーナーでもコメントをもらっていて、先生の元アシスタントとして、いろいろなお話をうかがいますが、メインのお仕事は何ですか?
野村:クリエイティブ部で、グッズ用のキャラクターの書下ろしなどを担当しています。もともとは手塚先生のアシスタントをしていました。先生ならどのような色の塗り方をしたか、という視点を心がけて監修をしています。

北京のスタジオでの色付け作業は、何人ぐらいの体制で行われているのでしょうか。
川添:現在は4人体制で作業をしています。動画の人二人に、仕上の人が二人、という体制です。カラーマンガをはじめる、というときに、ちょうどこのチームの仕上担当者が一人、日本に研修にやってきていて、一作目の前に作った試作品の作業を、ほとんど一人でやってもらったので、今の作業も進んでいますが、そのトライアルがなければ、いきなり現地で作業するのは難しかったと思います。
 はじめは戸惑う部分も多かったのですが、最近ではだいぶ慣れてきて、漫画としての色の塗り方にも慣れてきたと思います。はじめのころのリテイクの量から見ると、3ヶ月でだいぶ安心して見られるような質になってきています。
野村:僕のほうで監修していても、初めの頃は見てすぐに違和感を感じる部分や、手塚風でない部分が分かったんだけれども、最近は良く見ないと分からなくなってきました。

よくある修正点は?
川添:色抜けとか、まんが全体で見たときの色のバランスがおかしいなどのミスが多かったですが、それも最近減ってきています。
野村:初めの頃には、描き文字の一部が背景に溶け込んでしまったりして、言語の違いならではの悩みもあったようです。

北京のスタジオとコミュニケーションをしながら作業されているわけですが、中国の方々と、日本の私たちとの間での感覚の違いなどで面白いエピソードなどはありますか? また言葉の壁については、いかがでしょうか。
川添:物の色についての常識の違いには、時折ビックリします。日本独特の事物についての色彩感覚の違いなどは、こちらも気をつけて指示を出すようにしているのですが、こちらでも意外なところで違いがあったりなどします。
野村:先生の時代には常識だった、公衆電話の赤電話なども、薄い紫色みたいな別の色になっていたりしました。赤電話なんか、あの頃の日本の風景を知らなければ、塗るのは難しいでしょうね。
川添:日本と中国の違いについて実感したのは、道路の真ん中についている白い点線の色を、特に指定しなくても分かるかとおもって、「ホワイト」の指示を書き込まずに渡したら、オレンジ色に塗られてきたときです。日本ではあまりにもありふれたものになっていたので、特に意識していなかったので、びっくりしました。でも、確かに先日北京に行ってみたら、向こうはオレンジ色なんですね。
同じようなことはアニメの仕上げの際にも起こるのでしょうか?
川添:仕上げの作業の際にはあまりこのようなことはありません。背景ではよくこのようなことがあるようです。
指示出しについては、日本語は通じるのでしょうか。
川添:通訳の女性はいるのですが、やはりアニメの仕事を優先させているので、私が直接、翻訳ソフトなどをつかって中国語で指示をだしています。通訳さんが忙しい、というのもありますが、専門用語などを使うこともあり、直接やり取りしたほうが早い、ということもあります。図なども有効に使って、言葉に頼らなくてもこちらの意思が分かりやすいようにしています。

●アニメと違って難しいところはあるの?

左:人物の色指定。アニメの色指定も参考にされます。

いままでも北京のスタジオと一緒にお仕事をされることは普通にあったと思うのですが、アニメを作るときとフォーメーションや、作業自体が違っているところなどはあるのでしょうか。
川添:普段、アニメを作るときも、キャラクター表があって、色指定があって、動画、原画がある、という仕事の流れ自体は変わりません。ただ、今回のカラー漫画の場合は原画があるところに塗っていく塗り絵形式なので、その点が違います。また、アニメの場合は単に塗りのみですが、漫画には効果をつけなければならないところが違います。
たとえば、グラデーションとか?
川添:そうですね。それから、前にもでましたように漫画の場合は見開きの静止画で見せることを前提に描かれていますので、あまり同じ色をたくさん使うとバランスが悪かったりするので、そのようなところに配慮しなければならないところも、アニメとは違うところです。

また、使っているカラーチャートは、野村さんが作られたそうで、手塚先生が色の指定に使っていたものを手本に作られているとうかがいました。
野村:手塚先生の作ったものを元に、デジタルの色を拾って作ってみたのですが、微妙な色の違いなどが、デジタルで表現するのは難しかったです。先生の作った色の「チャコゲ」と「コゲチャ」の違いや、鮮やかな朱色なんかが、なかなか出なくて。
野村:先生らしい色の塗り方も、おいおい取り入れていきたいと考えています。

先生らしい色の塗り方、というと、どのような塗り方になるのでしょうか?
野村:たとえば、背景の空の部分が、単に空白に残されている場合でも、先生なら絵の具のみで模様のようなものを描いたりするんですよね。このテクニックは人物などの背景にも使われている、手塚先生独特のものです。そのうち、このようなテイストも出していけると面白いと思います。

最後に、今後、色塗りが楽しみな作品や、これはカラーで見てみたい、という作品はありますか?
川添:この作品が特別、というものはありません。全作品をきちんとカラー化していきたいと思います。
野村:僕としては、先生のいちばん初期の作品のカラー化が見てみたいです。どのように塗っていこうか、と悩むところでもありますね。初期作品のシンプルな線に、デジタルで色をつけたら、どんな風になるのか、楽しみです。

お二人とも、忙しいところ、ありがとうございました! これからどんどん増えていくカラー化作品を楽しみにしています!