今年の8月に、話題の単行本「スーパー太平記 カラー完全版」が発売されました!
この本の仕掛け人である野口文雄さんは、研究本「手塚治虫の奇妙な資料」の著者であり、数々の手塚作品の復刻にも関わられている、手塚作品研究家の第一人者です。
今回の「虫ん坊」では、野口さんと、この本の出版元・チクマ秀版社で担当をされている小山剛史さんのお二人からお話をうかがってきました。

今回の「スーパー太平記 カラー完全版」がスタートしたいきさつを教えてほしいのですが。
野口:もともと私が「手塚治虫の奇妙な資料」を書いた時に、その中で「いつか完全版を出します」と読者に約束したので、ずっと出したかったんですよ。そんな時、ある出版企画が縁で、こちらのチクマ秀版社さんと知り合ったので、「やりませんか」と言ったら「やります」という事になって。
小山:うちでは坂口尚さんや永島慎二さんの単行本は何冊か出させてもらった事があるんですが、手塚プロさんの本は出した事がなかったので、果たしてうちのような新興出版社が出せるのかな、という疑問はありましたね。ただ野口さんが窓口で、責任者の方にお願いすれば大丈夫だという事で、じゃあお願いします、と。
野口:(手塚プロの)古徳さんのところに最初に行った時には「『スーパー太平記』はマイナーだからなあ」と言われましたけどね(笑)。私は「決してマイナーじゃない、完全版なら、手塚治虫の代表作の1本に間違いない」って言ったんです。出来上がった本を見てもらえればわかると思いますよ。

   

そんなに従来の単行本と完全版とは内容が違うのですか。
野口:そう。これまでの単行本では、終わりの方のエピソードを丸ごとポンと切っちゃってるんですよ。それについては先生自身が最初の単行本の前書きで「終わりをちょん切った」と書いてます。さらに、雑誌の4段組を3段に変えているから、絵がかたっぱしからトリミングされちゃってるんです。
では今回の復刻の目的は、その失われた部分の復元ですね。
野口: そうですね。ですからこの「完全版」はこれまでの単行本とまるで違いますよ。マニアの人でも、両方を見比べると「ここまで自分の作品を切り刻んじゃうのか?」と、ガクゼンとすると思いますね。


  左が単行本のコピー。
  右が切り貼り作業により、連載時の原稿を再現したもの
   

具体的にはどのような復元作業を?
野口:雑誌やフロクをコピーしたものに、原稿のコピーを貼りこんで(トリミング前の状態を)復元するんですが、このサイズが微妙に合わなくて苦労しました。さらに切った絵に描き足しがあったりして、なかなか元の絵そのままに戻らなかったですね。で、昔の雑誌は紙が悪くて印刷状態がひどいので、原稿のない部分にはホワイトをかけ、ベタをぬり、にじんで太ったりカスれたりした線をきれいに修整しました。
しかし、作業をしていて思ったのは、手塚治虫は本当に天才だという事です。単行本化された作品の多くは、コンパクトに切り詰められている訳で、皆さんそれを見て先生を天才だと言っていますが、その元は、カラーで描かれたという事も含めて、単行本化されたものより遥かに濃密な作品だったんです。しかも娯楽的ににも芸術的にも高度な作品を、信じられないほどに量産しながら、年に365本以上の映画を観たり、その他諸々の事をしていたというんですから、これはもう天才としか言いようがない。

今回の本では、カラーページもそのまま復刻されていますか?
小山:今回は「カラー完全版」ということで、当時の「少年画報」連載そのままに復元しました。原稿がある部分はそれを使い、無い部分は雑誌からスキャンしました。
色の再現のクオリティはどうでしたか?
野口:やはり最初は不安だったんですけど、何度かやってもらっているうちに良くなってきて、(手塚プロ資料室の)森さんも「良いんじゃないか」と言ってくれましたよ。
それと意外だったのが、カラー原稿が思ったよりもたくさん残っていたんですよ。「スーパー太平記」は、昨年出た「手塚治虫原画の秘密」(新潮社)以前のムックには原稿の図版が一度も載った事がなかったので、残ってないんだと思い込んでいたんですけどね。ただカラーじゃない原稿は3段に組み変えられたやつしか残っていないから、私が悪戦苦闘して元に戻したんですよ(笑)。
復刻に使う雑誌やフロクは、一枚一枚バラバラにしてしまうそうですが、今回も野口さんのコレクションをバラしたんですか?
野口:ええ、バラしました。雑誌の新年号なんかでは、先生が挨拶のカットを描いてたりするんですが、それも入れました。そういう意味でも完全版です。
小山:解説のページに、連載開始の予告ページというのも入れています。
小山さんの方で、編集の立場から苦労話などありましたら。
小山:とにかく作業的には、この暑い最中に野口さんにひたすらやっていただきました。最後の方では毎日連絡して「一枚でもいいから、できていたら下さい。取りに行きます」という感じでしたね。


野口さん所蔵の貴重なコレクション

それでは最後に、少々気が早いですが、次の復刻についての構想などありますか?
野口:ええ。私は「スリル博士」がやりたいなあ、と思ってます。
小山:うちの方でも、また野口さんと何かやりたいですね。
本日はどうもありがとうございました。


(写真 左:小山さん 右:野口さん)

「スーパー太平記 カラー完全版」
A5版 並製本 260ページ
定価 2835円(税込み)
※姉妹作品『ピストルをあたまにのせた人びと』併録