■今月の読者レポートは、「手塚治虫文化賞」の10周年を記念して開催されたイベント「マンガ未来世紀」です。このイベントには、審査員の皆さんをはじめ、受賞者であるマンガ家の皆さんも大勢参加され、おおいに盛り上がりました。レポーターは田浦紀子さんです。

(写真提供/朝日新聞社)


↑手塚治虫の原画展示も

 9月10日、有楽町朝日ホールで行われた手塚治虫文化賞10周年記念イベント「マンガ未来世紀」に行って参りました。
 11階の朝日ホール会場入ってすぐのところに関連展示があったので、しばし鑑賞。『鉄腕アトム』『ブラック・ジャック』『陽だまりの樹』『火の鳥』『三つ目がとおる』など代表作の扉絵原画が10点前後。同時に展示されていた手塚先生の写真は『朝日ジャーナル』掲載のものでしたが、かなり珍しい写真でした。他は文化賞の受賞者が描いた絵を大パネル化したものに、ご本人がマジックでサインしたものが展示されていました。


  さて、開演時間もせまってきたので中へ。パンフレットとともに渡されたのが色紙応募用紙。歴代受賞者の色紙が展示されていて、抽選の上で当選者のみ発送されるとのこと。競争率が高くて絶対当たるわけがないと思いましたが、私は浦沢先生にマルをつけました。
  ホール内は既にいっぱい。正直ここまでコアな空気のイベントに700人も集まるってのがちょっとオドロキなんですが、なんていっても今をときめく浦沢先生にモー様が来られているんですから、満席なのも頷けます。


午後1時、いよいよ「マンガ未来世紀」の開幕です。開会の挨拶は手塚眞さん。「手塚治虫文化賞」の名前を付けたのは眞さんなんだそうです。「文化」とは国によって違う価値観があり、マンガを「文化」として捉えるのも日本ならではのもの。今や日本の文化となっているマンガを世界に発信していきましょう、といった内容でした。

第1部 極私的マンガ事情2006
荒俣宏氏/いしかわじゅん氏

ひと言で言えばいしかわさん独特のゆるゆるトークで(笑)。これは「マンガ夜話」ですかっ!?な感じで始まった第1部。

 内容は「手塚治虫文化賞」の選考にあたっての裏話なのですが、最初は審査員同士顔をあわせることなく「投票」で決めていたものの、途中からは「談合」(笑)で決めることに。しきりに「談合」を連発していたのがおもしろかったです。
  何より悩んだのは予想通り浦沢直樹氏の『 PLUTO 』。『 MONSTER 』に続く2度目な上、手塚原作の作品を手塚治虫文化賞にしちゃっていいのか?しかも、まだ2巻が出たばっかりで。しかし、圧倒的なおもしろさに大賞に決まったとの事。
 そして、今年の大賞・吾妻ひでお氏の『失踪日記』。「全部実話です(笑)って表紙に書いてあるけど、実際は笑いにしなきゃやってられないくらい悲惨だったらしくって。」と吾妻さんを心配されていたご様子。「行方不明になっていたんだけど、最終的にクリエーターとしては描かずにいられなかったんだな。あれが結果的には取材旅行だったんだよね。でもそれで大賞取れて本当によかったよねー。」って話で時間オーバー、終了(笑)。

第2部 画力対決七番勝負〜二人とも、ほんとに美大出身なんですか?
しりあがり寿氏/西原理恵子氏

 しりあがりさんと西原さんが手塚キャラの絵を何も資料を見ずにスケッチブックに即興で描くというテーマ。
  司会 「お二人とも美大出身で。しりあがりさんはタマビ(多摩美術大学)、西原さんはムサビ(武蔵野美術大学)。お二人の共通点といえば、ヘタウマというわれている点ですよね。」
 しりあがりさんはベレー帽にメガネという明らかに手塚先生を意識した格好、西原さんは、割烹着を着た「毎日かあさん」な格好でのご出演。お二人に出されたお題は、アトム、サファイア、火の鳥、レオ、ブラック・ジャック、ヒョウタンツギ、スパイダー、手塚先生の顔。
 会場内大爆笑の渦でした。お二人ともめっちゃ自己流で。というよりも手塚キャラとは似ても似つかない絵で笑えてしかたがなかったです。だってしりあがりさんのサファイアなんてちょうちんブルマはいているし、帽子がなくて直接頭にリボンつけているし、西原さんのヒョウタンツギなんてブタ鼻がないし。B・Jは二人ともツギの向きが逆。西原さんのB・Jは髪の白黒も反転していたし、黒いてるてる坊主みたいでした。しりあがりさんのレオはどっから見ても「ただのライオン」。黒耳や黒いしっぽという基本的なレオの特徴とはかけはなれていて
(^^;)西原さんの火の鳥は外国の民芸品みたいだったけどかわいかったですねえ♪最後に荒俣宏さんの似顔絵を描いて第2部終了。

第3部 手塚治虫から続く道 21世紀の漫画家たち
萩尾望都氏/浦沢直樹氏/夏目房之介氏


↑夏目房之介版アトム。

 第2部の内容をうける形で浦沢先生のアトムが披露され、会場からは「お〜っ!」という感心の声が。そもそも浦沢先生は手塚マンガの完全なコピーから始まり、大友克洋氏の影響を受けて今の絵になったそうなのです。それにしても、浦沢先生ってすごい。「サイボーグ009」の島村ジョーをサラサラと。さらに大友タッチの人間(若干上から見下ろした人間の後姿)を書き上げ「ここに影をつけたら大友さんの絵になるんです」。あまりの画力にただただ客席は感嘆するばかり。この人って本当に天才なんだ、と改めて思った次第です。


  それから、『ビッグX』の描き直しについて「ここからここまでは70年代の絵になっているんだよね」との浦沢先生の指摘にはたまげました!浦沢先生って本当に手塚先生の絵をよく研究され、自分の血となり肉となっているんだなあ、と。
  自分の中でどのような作家が影響したか、という話で、萩尾望都さんは次のようなマンガ家の絵を描き分け説明されました。横山光輝さん(の少女マンガ。特に横顔に美しさ)→水野英子さん→矢代まさこさん(ふたつの目の幅が若干狭まってきりっとした印象)。
  最後の質問コーナーで「今、気になるマンガは何ですか?」との質問に「ガラスの仮面はどうなるんでしょうか?」と萩尾望都先生。会場からはわれんばかりの拍手が!(笑)。やっぱり、みんな気になるのねーガラかめの続きが(^^)

 というわけで、あっという間の4時間半でした。今回3部構成だったイベントですが、それぞれ全然違う意味のおもしろさがあり、実に有意義なひとときでした。

■このイベントの模様は10月中旬に出版される「ニッポンのマンガ」(朝日新聞社)に収録予定だそうです。で、調べてみてビックリ!な、な、なんと!この本、米国で発見された手塚治虫の幻の作品も完全収録、とあるではありませんか!?めっちゃすごいんじ ゃないですか!?


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