■今月は、「ブラック・ジャック」ファンの間で話題沸騰中のゲーム、「ブラック・ジャック 火の鳥編」(ニンテンドーDS用ソフト)のプロデューサーであり、株式会社セガのクリエイティブプロデューサーでもある、岡野哲さんにお話をうかがってきました!

 岡野さんは、手塚ファン・ゲームファンから好評を得たゲームソフト「ASTROBOY 鉄腕アトム アトムハートの秘密」(GBA用ソフト)のディレクターとして、2003年12月号にもご登場していただきましたが、今回2年10ヶ月ぶりに再登場いただき、ゲーム情報やおすすめポイントなどを語っていただきました。

 


――今回のゲーム開発のいきさつを教えて下さい。
岡野:最初、私が企画を出したんですけど、前回「アトム」(GBA用ソフト『ASTROBOY 鉄腕アトム アトムハートの秘密』)をやらせていただいた流れで、ぜひまた手塚作品をやりたいな、と思いまして。やるならやっぱり「ブラック・ジャック」がいいな、という話になったんです。すると、ちょうどアニメの方も始まったので、それに乗っかればさらにいいなあ、とは思ったんですが、そこで問題になったのが「ブラック・ジャックって、どうやってゲームにすればいいの?」ということだったんです。「アトム」の評判はわりと良かったんですけど、アトムが攻撃する代わりにメスを投げるアクション・ゲームを作ってもしょうがないので。
――そうですね(笑)。
岡野:じゃあどういうゲームにするか、というところで結構手間取りまして、企画が通って、ゲームが出来上がった時には、アニメも終わっていたというわけです。


↑「七色いんこ」など、ゲームではレアなキャラクターも登場

――ではアニメとの連動企画というわけではなかったんですね。
岡野:そうですね。企画が通ったのは「アニメがあるから」というのも大きいですけど、企画自体は「アトム」が終わった頃からちょこちょことやっていました。
――では、ゲームの内容はどちらかというとアニメより原作寄りなのですか?
岡野:そうです。特に今回「マンガ・アドベンチャー」と称していまして、手塚先生の“紙にスミベタで描いて、透明水彩で塗る”というタッチをそのまま生かした感じになっています。
――「アトムハートの秘密」と同じく、今回もたくさんのキャラクターが出演するそうですが、どのような基準で選ばれたのでしょうか?
岡野:これはですね、前作の「アトム」が完全にアニメとリンクしていて、子供向けのライトな方向だったので、今回はダークな「ブラック・ジャック」ということで、チョコでいえばスイートからビターな方向にシフトして選びました。できるだけ「アトム」とかぶらないということで、「アドルフに告ぐ」とか「きりひと讃歌」とか、「これはゲームでは見たことないだろう」という作品を中心に人選しています。


――制作上で特に苦労した点はありますか?
岡野:一番大きかったのは、なかなか企画が通らなかったことですね。二つ目は「マンガ・アドベンチャー」と称した新しいシステムの前例がなかったことです。ゲームを作る上で、自分のゲームが面白くなるかならないか、わからないで作るというのは、本当におっかないんですよ。たとえばアクション・ゲームで「マリオの代わりにアトムが戦います」というとわりと楽なんですけども、今回は何とかしてものになるまでは、「本当にゲームになるのだろうか?!」と戦々恐々という感じでした。スケジュールは決まっているわけですから、半年かけて作ってつまらなかったら、もうどうしようもないですからね。
――その「マンガ・アドベンチャー」の新システムについて、簡単にご説明願えますか?
岡野:要はですね、マンガのコマが画面の下からどんどん持ち上がっていって、ページを構成していくんですね。

 で、マンガにはフキダシがありますが、色んなフキダシに混じって「これにそって入力してくれよ」っていう、特殊なフキダシが出てくることがあります。DSにはタッチペンがありますので、この特殊なフキダシが出た時に、ペンでそれに応じた入力をすることによって、きちんとマンガの展開を進めることができるという流れなんです。
 で、最初にちょっと困っていたのが、「ブラック・ジャック」は手術というテーマをどうしても避けられないじゃないですか。

――ええ。
岡野:ただ、手術というのはゲームじゃないので、本来はうまくやるとか高得点という考え方はありえないんですよ。しかも、あれは時計の修理みたいな精密作業なので、ゲームの基本である「 リスク&リターン」、つまり「あなたがこれだけリスクをおかすと、これだけのものが手に入るかもしれないよ」というのは、本当の手術にはないんです。もうひたすら細かくてつらい作業をやって、全部やったら完成、みたいな。でもそれではゲームにならないので、何とかしてブラック・ジャックの手術の雰囲気を味わいつつ、ゲームとして成立させるには?ということで、少々変化球なんですが、こんなやり方を考えてみました。
 手塚先生にとっても、たとえば盲腸の手術の過程を面白く描く、ということはテーマではなくて、手術をするとこの患者はどうなるのか、またはハードルに対してブラック・ジャックがどう立ち向かっていくのか、ということがメインのテーマであって、そこを取り違えないようにしたいと思ったんです。

 自分はブラック・ジャックのキャラクター性にのっとりたいわけであって、彼が実際に行う手術をやりたいわけじゃないんだ、というのがとてもありましてね。実はニンテンドーDSというハード用に作ったんですけど、皆考えることは同じらしくって、リアルに手術をやるゲームが前に2本も出てるんですよ。私も作るにあたって一生懸命参考にしたんですけど「これはやはりゲームではなかろう」という結論になったのと、あと「ブラック・ジャックが他と同じでどうするよ?!」というのがあったので、変わったシステムになったというのもあります。  


↑岡野さん私物のニンテンドーDS。サインはアフレコ時に大塚明夫さんからもらったもの。ゲームでは、大塚さんの熱演ボイスが聞けるそうです!

――ゲームが実際に完成して、手ごたえはいかがですか?
岡野:いや、どうでしょうね(笑)。本当に他に類の無いゲームなので。一通りはがんばったつもりですが、後は皆さんの判断をあおぎたい、みたいな。
――では、ゲームファンや原作ファンへ、特にアピールしたい点を教えて下さい。
岡野:たぶん「ブラック・ジャック」のファンの人というのは、ゲームそのものではなく、どっちかというとブラック・ジャックのキャラクター性であったり、彼が背負っているストーリーやテーマの方に興味があると思うんですよ。ですので、今回は「火の鳥編」と銘打って、 30人以上の患者をクリアすることによって、原作にもアニメにもないオリジナルストーリーが楽しめるように作っています。

 前回の「アトム」でも火の鳥が出てきたんですけども、子供向けの作品だったので「全能の神」みたいな扱いだったんですね。でもブラック・ジャックが本当に火の鳥と対峙したら、原作にもありましたけど、たぶんそんなに肯定的な立場では立てないと思うんです。
  ブラック・ジャックは医者で、必ず救えるとは限らない命を扱っている。その前に「私の血があれば不老不死になれます」って言う火の鳥が来たら、はたして彼は何と言うか?っていうのが、今回一番やってみたかったところなんです。これは原作でもアニメでもやっていなかったところなんですけど、そこを原作ファンの人が見て「こんなのブラック・ジャックじゃない」とならずに、「ひょっとしたら、これもアリかも」ぐらいのところまで持っていけてると、これ幸いかな…と思ってます(笑)。

――お忙しい中、どうもありがとうございました。 

「ブラック・ジャック 火の鳥編」公式HP
「虫ん坊」2003年12月号