著作権を無視して映像ソフトなどをコピーし、不法に販売したり、配ったりするいわゆる「海賊盤」による被害について、広く一般の人々に知ってもらおうというキャンペーン「STOP THE PIRACY」。そのキャンペーンの一環として、東京・名古屋・京都の街の中にモニュメント「STOP THE PIRACY」が巡回展示されています。現在は京都の駅ビルに展示されている、アトムとガンダムがコラボレーションしたこのモニュメントを、実際にごらんになった方も多いのではないでしょうか?
 虫ん坊5月号では、このモニュメントを制作された岩野勝人さんにお話を伺いました。


↑歌舞伎町・コマ劇場前に展示された、
“STOP THE PIRACY” モニュメント

――"STOP THE PIRACY"モニュメント制作のいきさつに付いて、教えてください。
岩野: 手塚プロダクションの石渡さんから、アトムとガンダムをコラボレーションさせて著作権保護に関するモニュメントを制作するお話をいただいたのが始めです。私は、コンセプトにあわせて、モニュメントをどういった形にしていくかを考え、提案するところから参加しています。
――モニュメントの形は何を表しているのでしょうか。
岩野: 現在のインターネット等が盛んに使用される情報化社会の中で、データとしてのソフトがどのように扱われているかをビジュアル的にあらわしています。アトムもガンダムも、情報の中を自由に泳いでいるというわけではなく、しばしば海賊行為などで邪魔をされ、それらの妨害と戦っている、というか、自ら著作権を懸命に守っている、というところをあらわしました。

――プロフィールを拝見しますと、手塚プロとは何度もコラボレーションをされているようですが。
岩野: 手塚先生がお亡くなりになった直後に開催された、「私のアトム展」で、プロデューサーの楠田さんのお声掛けがあり、会場の空間演出で協力させていただいたのがはじめでした。それから何回か、企画展などでご協力させていただいています。
――それ以前から手塚作品とは深いかかわりを持たれていたのでしょうか。
岩野: 世代としても、とてもかかわりが深く、幼稚園の頃から手塚先生の作品――「アトム」や「悟空」なんかと一緒に育ってきたと言っても過言ではありません。小さいころはグッズもたくさん持っていたし、アトムなんかの落書きもずいぶんしました。
――手塚プロでの展示物をご作成される際も、やはりアトムを多く作られていますが、アトムを作るときに気を付けていることなどはありますか?
岩野: 原作の手塚先生のきれいなラインを生かして、できるだけリアルなアトムを作るように、自分の中のアトム像にできるだけ忠実に作るよう、心がけています。


↑アトムの部分をアップで


↑“STOP THE PIRACY”制作風景

 やはり、2次元の線で描かれた「絵」を3次元の「形」に作り変える際には、損なわれるところが出てきてしまうのです。そこをいかに、自分の中のリアルなアトムに近づけるかに一番、気を付けます。丸の描きかた一つにしても、立体にすると、不自然な丸、違った表現の丸などになってしまうことがあります。丸から3次元の球を作るにも、手塚先生のラインの持つやわらかさから離れたものにならないようにするのが、一番難しい、気を使う部分です。
――モニュメントやオブジェの制作以外のご活動では、一般の方が参加できるワークショップを何回も開催していらっしゃいます。
岩野: 現在の美術は、閉鎖的になってしまっていて、一般の人が自由に参加できる空気がないように思います。美術作品を美術館に閉じ込めてしまうのではなく、社会に還元していこうという意図で、ワークショップを開いています。ワークショップでは、小学生が対象の時もあれば、大人が対象となる場合もありますが、参加者が共有できるモノ作りを体験してもらって、その面白さや魅力を体感してもらうのが大きな目的です。
 今回のモニュメントもそうですが、社会に貢献できる、社会生活に参加する、という『モノ』のあり方、『モノ』と『モノ』との関係と言う部分を、作品を作っていく上でのキー・ワードにしています。

――モニュメントは歌舞伎町のど真ん中などといった、街の中に置く、という珍しい展示になっていますが、設置場所による制限や、もし、壊れてしまったら、などやはり気になられたところかと思います。
岩野: 町中に置くための条件や、設定した環境にいかにとけこむか、といったところは、作業の中でも特に重要なところでした。もし、壊れてしまったら、というところも、壊れたら直せばいいし、直したりしながら存在していく事が、本来のモノのあり方だと思っています。
 今回のモニュメントでは、警備員もいて、一般の人には触れられないようになっていましたが、さわったり、乗ったりできる作品でも良かったかも知れません。通りすがりに見過ごされてしまうよりは、より身近に感じていただける作品を作っていきたいと考えています。


↑ 先月の虫ん坊読者レポートでご紹介した、「手塚治虫のCOSMO ZONE THEATER」に展示されているモニュメントも、岩野さんの作品です。右の写真は、お手伝いをした学生さんたちです。

――今後の個展や、ワークショップなどのご予定を聞かせてください。
岩野: 近いところでは、STOP THE PIRACYの京都駅への搬入のある27日の午後から、宮崎県延岡市にある小学校でワークショップを開く事になっています。こちらは小学校から開催の依頼があったので、参加者は小学校の生徒さんたちです。
 また、まだ詳細は決まっていませんが、徳島県立近代美術館でも、ワークショップを開こうという計画を練っているところです。
――最後に、自分も美術の分野で活躍したい! と考えている人々に、何か一言いただけますでしょうか。
岩野: 「美術」という枠にこだわらず、自分のやりたい事を展開していくのが、これからの美術のステージになっていくと思います。
 もちろん、大学などに入って造型や絵画の勉強をしていくことも大切ですし、基本を学ぶことにはおおきな意味がありますが、そういったアカデミックな「美術」の枠から外れた、自分の作りたいものをどんどん作っていく、ということが何より大切だと思います。
――本日はお忙しいところ、ありがとうございました。


“STOP THE PIRACY”モニュメントは、5月5日まで、京都駅前に展示されています。お近くの方はぜひ一度、ごらんになってください。

岩野勝人さんHP