3月18日に「愛・地球博」より一足早くオープンした「De La Fantasia」にて上映中の 「手塚治虫のCOSMO ZONE THEATER」。
 「虫ん坊」では、「COSMO ZONE THEATER」に導入された「メガスターII」開発者・プラネタリウムクリエイターの大平貴之氏に、プラネタリウム製作への思い、そして、今回のコラボレーションについてインタビューしてきました!


■手塚アニメの影響
編:今回の『COSMO ZONE THEATER』の作品を手がけることになった経緯を教えていただけますか。
大平:去年の秋口ぐらいですかね、(チーフプロデューサー・クリエイティブディレクターの)大邉さんから「こういう企画があるけどどうか」と、お声がけしていただいたのがキッカケです。たぶん大邉さんは、僕が去年NHKの『トップランナー』という番組に出演したのをたまたま観て、おぼえていたんだと思います。
編:大平さんは1970年生まれとお聞きしていますが、世代としては手塚治虫の連載をリアルタイムで楽しめたギリギリぐらいじゃないかと思うのですが。
大平:そうですね。
編:当時は手塚作品は読まれていましたか?
大平:僕は子供の頃はマンガ自体をあまり読まなくて、手塚作品だとほとんどアニメですね。でも今回仕事をしてみて、手塚さんの思いみたいなものに触れてみて、僕自身というよりも、僕らの世代みんなが、おそらく手塚作品の影響をものすごく受けてるんじゃないかと再発見しました。そういう、自分の心の一部を形成してきたものに触れた感覚って、すごく新鮮でしたね。だんだんいい歳になってきて、忘れちゃってるんですよね。手塚作品からの影響を。


■表現を生かしたい

編:今回の作品はメガスターと手塚アニメとのコラボレーションですが、演出面やメッセージなど、どの程度ご自分の狙いを出せましたか?
大平:そうですね、実は僕自身「メガスターを使ってこれを表現したい」という固まったものがあるわけではなくて。メガスターがアーティストだとすれば、必ずしも主役であることにこだわることはないですし、その時その時で変わりますから。
今回の作品に関しては、コラボレーションでありながら、やっぱり手塚さんの作品の理念をメッセージとして表現する一つの重要なアイテムなんですね。だから、自分がこういうものを伝えたい!こういうことをやろう!というよりも、手塚プロさんや脚本の田島さんが表現したいものを、いかにして生かせるか、思っている以上のものにできるかということで、ハードウェアまわりを一挙に引き受けたんです。時々ミーティングに顔を出して「こうしたらどうか」とか、「メガスターとはこういうものだから、こういう事をやったらいいかも」みたいな(意見を出す)スタンスでした。そういう意味では、もっとやりたい事もいっぱいあったんですけども、まずは、それなりの形にはできたかなという気はしますね。


■仕事について
編:プロの現場で活躍されている方々が、どのような仕事を日々されているか知りたいのですが、簡単に説明していただけますか?
大平:私はおととしの5月に独立して、もう1人のスタッフと2人で仕事をしてるんですけど、普段の仕事は結構バタバタしています。事務所で機械を組み立てたり、メカの設計をしたり、電気回路を作ったり、コンピューターのプログラミングをすることもあるし、こういうイベントにメガスターを出して現場で調整したり、色んな企画をしたり、場合によってはそれに関するコンテンツを作ったりと、プラネタリウムに関する総合的な仕事をやってますね。
編:経歴を拝見すると、小学生の頃からプラネタリウムを作られていて、一つの目標を決めたらそこへ突き進むような「実現力」があるように思えるのですが、自分自身の性格をどのように認識されていますか?
大平:うーん、自分で自分のことって一番よくわかんなかったりするじゃないですか。客観的に見れないので、自分の実現力というのを意識した事はあまりないんですけど…まあプラネタリウムを作るというのは子供の頃から好きで、ただ、当時から今の自分を目標にやってきたというのは全くなくって。学校では理科が好きだったので、科学者とかそういうおぼろげなイメージはあったんですけど。色々やってきた積み重ねで、結果的にここにいきついているんだと思います。
例えば目の前にバーンと道があって、「10年後にはメガスターを全国に普及させるんだ!」みたいなマイルストーンに向かって進んでいるというよりも、先がジャングルになっていてどこまで行けるかわからない中を「こんな所に木の実があった」みたいな進み方をしている感覚ですね。

編:お話をうかがって、天体を観測する事よりは、物を作って、人に見せて、その結果を楽しむという事の方が実はお好きなんじゃないかという印象を受けたのですが。
大平:ああ、それは確かにそうですね。「プラネタリウムを作ってる」って言うと、星が好きで好きでたまらないんだな、って考える人は多いと思うんです。でも自分より星が好きな人はいくらでもいて、そういう人に比べると星を見に行く回数も少ないですし。
 むしろ星というのは自分にとっては表現の題材なんです。絵描きさんであれば絵を描くとかいう自己表現があって、それがエンジニアである自分にとっては使っている道具がメカなんですね。ある意味アーティストといいますか、音楽家とかマンガ家と感覚的には近いです。
編:仕事をする上で心掛けている事などはありますか?
大平:そうですね…「不可能は証明できない」という事で、「これはできないんだ」みたいな考え方はなるべくしないようにしていますね。
編:「不可能は証明できない」ですか。
大平:たとえばタイムマシンを実現するのに必要な技術を将来にわたって全部調べて、理解して、宇宙の法則を全部知らない限り、タイムマシンが不可能だなんて証明する事はできないですよね。今の僕らが知らない全く新しい技術が実現されるかもしれないですから。
 実際、人が「ここまではできないだろう」と言ってる事も、やってみるとできたりするので…今回もある意味そうですね。時間の制約がある中で「本当に出来るのか?」という感じがあったんですが。

編:今後の目標がありましたら教えて下さい。
大平:具体的に動いているプロジェクトとしては、メガスターの技術を応用した家庭用のプラネタリウムを開発中です。これはどこかの企業が商品化する事になると思います。
 それと、メガスターは機械としては完成しているんですが、星を映すだけの存在でもあるので、作品として完成させるため、星、映像、音響をひとまとめにしたプラネタリウムのシステムを完成させたいと思ってます。


■作品のみどころ

編:それでは、最後に今回の作品で「ここは見て欲しい」というところを教えて下さい。
大平:『ガラスの地球を救え』という作品は、僕も今回初めて読んだんですが、結構危機感がありますよね。特に今なんか手塚さんがご存命だったら、イラクの爆撃なんて相当危機感をもったんじゃないかと思うんですけど…
いま、多くの人達が「ああ、もう21世紀は地球だめなんじゃないか」と悲観的になりがちだし、あるいは技術文明とかに対して否定的になりがちじゃないですか。
 でも今回作品を作っていて、手塚作品の特徴っていいますか、画面を見ていて感じるのは、そういう危機感がありながら、その未来に対して一貫した希望を持っていますよね。例えば、作品の1シーンでウランがお花畑で笑っているところなんか象徴的だと思うんです。
 手塚さんの場合は、ロボットという究極のテクノロジーと、自然のあったかさが調和した未来に対して明るい見方をしているところがあって、そこが一番の特徴だと思うんですね。
 もちろん、危機感というものはあるんですけど、最後に残っていくのは希望だと思うんです。そんなメッセージを作品から感じてもらえればいいと思うし、希望に包まれて会場を後にしてもらえればいいなと思います。
編:オープン当日のお忙しい時にもかかわらず、お話を聞かせていただきまして、ありがとうございました。

【2005年3月18日 デ・ラ・ファンタジア会場にて】  


「手塚治虫COSMO ZOME THEATER」に関しては、下記のホームページでも詳しい情報を確認できます。
名古屋にお立ち寄りの際には、ぜひ足を運んでみてくださいね!

虫ん坊1月号