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手塚るみ子さんが案内役となって手塚先生の大好物をご紹介するこのコーナー、6回目の今月は、手塚家のプライベートなおやつ、手塚家オリジナル・ぽっとんドーナツをご紹介いたします。先生がお仕事中などにつまんだと言う、悦子夫人お手製のおやつです。 |
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グルメ・ド・オサムシ6 「手塚家オリジナルお菓子『ぽっとんドーナツ』」 手塚家オリジナルのお菓子に「ぽっとんドーナツ」というのがある。 私が子供だった時分、つまり虫プロがあった頃の我が家では、母がよくこのお菓子を作ってはお誕生会や3時のおやつに食べさせてくれたのだが、父もまたこの「ぽっとんドーナツ」が大のお気に入りで、いつも私たち子供と一緒になっては出来たばかりのドーナツを喜んで摘んで食べていたのだ。 この「ぽっとんドーナツ」とは、リング型になってるドーナツと違って、生地をスプーンですくってそのまま油に落として揚げるので、出来上がりは小ぶりでコロコロと丸い団子状のドーナツになる。作り方は実に簡単至極。まず市販のホットケーキミックスをカップ一杯、そこに卵1個と牛乳を少々を加え、ホットケーキを作るよりも気持ちゆるめの生地を溶く。それをスプーンですくって油の中にぽっとん!落とすと、丸い小さな塊がぷっくりと揚がり、それに粉砂糖やチョコレートをトッピングして、ハイ、出来上がり!なんとも単純で安易なお菓子だろうか?! でもスプーンからの落とし具合によっては、実に色んな形状のドーナツになるので、それを私たち子供は「これは怪獣!これはライオン!」なんて想像を膨らませながら、出来たてを美味しく楽しく食べていたのだ。 また父にしてみれば、この"一口サイズ"というのが結構ポイントで、忙しく漫画を描いている最中でも難なく口にもって運べるというので、なかなか重宝していたようだ。 ところで、この「ぽっとんドーナツ」はそもそも母が考案したものじゃない。最初こそ母もリング状のドーナツを作っていたのだが、ある日父の母=つまり祖母がこのぽっとん方式をやったので、母もそれに習って作るようになったのだという。叔母にそのへんを取材してみると、どうも父や叔母は子供の頃に、そんな形のドーナツを食べていたんだそうだ。それは戦時中、小麦粉しか配給されなかった時に、少しでもお腹の足しになるようにと、祖母が小麦粉に水を加え、それをスプーンですくって脂で揚げるお菓子を作って食べさせたのが、そもそも「ぽっとん」のキッカケだったとか。砂糖すら無かったが、それでも油で揚げると小麦粉に甘みが出るので、子供心には美味しく思えたという。 戦時下にやむなく作ったお菓子とはいえ、嬉しい思い出となった「ぽっとんドーナツ」は、偶然にも母がそれを受け継ぎ、父は懐かしい気持ちから喜んで食べていたのかもしれない。またこれとは別に、父は昔から縁日などで売ってる「ちんちん玉子焼き」(「ベビーカステラ」のようなもの)も大好きだったという。多分あれもまた「ぽっとんドーナツ」と同じく父のメモリアルな部分に触れたお菓子なのかもしれない。 ちなみに今回、何十年ぶりかに母が作り方を再現してくれたのだが、これを機会に私もこの手塚家代々のお菓子「ぽっとんドーナツ」を、思いがけず伝授されることになった。
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