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月を見るの、大好きなんですね。 街を歩いていて、夕暮れ時に空に月を見つけると、それだけで嬉しくなります。 車を運転中に前方に月があると見とれてしまうので、ちょっと危険なんですが。 心理学者は月を女性に、太陽を男性に象徴して見ることがありますが、月と太陽、なかなか良いカップルです。 人のタイプでも、太陽的なヒトと月的なヒトがいますね。手塚治虫は、もちろん太陽だと思いますよ。みなさんにとって。 描いてきた漫画も、太陽のように心を明るく照らし、良いエネルギーを与えてくれる。 もちろんたまには月のような漫画にもチャレンジしていましたね。 『ばるぼら』とか『人間昆虫記』のような作品は、月のイメージ。 本人の言葉を借りれば「暗い」。 でもそれは月の涼しげな明るさのようで、ぼくは好きですね。 ぼくも映画監督をしていますから、十分に太陽っぽいんです。 何だか、いつも身体の中がカッカッと燃えている感じがするんです。 熱いんですよ。 そう見えないかもしれませんが。 夏なんか、自分が熱くて汗ビッショリになっちゃう。 だけど、ぼくは父以上に月に憧れていますね。 だから作品は、自ずと月っぽいんです。正確にいえば、月に憧れた太陽の作った作品、という感じ。本当に感性が月のヒトの作品とは、ちょっと違うかもしれませんね。 月っぽいのって、どんなのかって? 言葉にすると誤解があるかもしれませんが、夜や闇のイメージ、神秘的、静的、繊細、アンニュイ、ナーバス、エキセントリック、そして心の内側を覗いたり、そこに入り込んだりする性質のこと。 手塚治虫は、どちらかといえばそういうのあまり好きではなかったみたいです。 映画の趣味も、そこで分かれましたね。 デビッド・リンチ監督の『ブルー・ベルベット』という奇妙な映画があります。ぼくはけっこう好きなんですが、父は「おれ、ああいうの嫌い」ってハッキリいってました。 デニス・ホッパーが『F××K!』とかって叫びながら、画面からパッと消えてしまうところがあるんですね。消えるといっても、つまり家の中から出かけて行ったということで、車の走り去る音が続くんです。映画の専門用語で「ジャンプカット」っていうんですけど、ぼくがそこが新鮮だったっていうと、父は「安っぽいよ」って。 きっと学生映画みたいに見えたんじゃないかな。 太陽のヒトらしい意見でしょ? |
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