夏休みになると、終戦記念日がやってきます。
 いまの子供には、終戦記念日なんてピンとこないかもね。
 もちろんぼくだって戦後生まれ。戦争のこと、よく知らない。でも両親もその親も体験しているから、そんなに遠い話とは思えない。
 親から戦争の話って、聞いたことありますか?
 ウチの父親も、直接そんなハナシはしなかったな。
 戦争のことに限らず、自分の過去のこと、子供時代のこと、ほとんどぼくらには語らなかった。そのかわり漫画に描いているのです。
 だから漫画を通して間接的に、父親の戦争体験を知ってるって感じ。
 ぼくは子供の頃から映画が大好きだったんだけど、とても苦手だったのが、恋愛映画と戦争映画。
 ラブ・ストーリーは子供には退屈で、すぐ飽きちゃう。つまらない映画の代名詞だった。 戦争映画は正直いって、コワカッた。ぼくはホラーとか全然平気。怖いけど、ハラハラさせるものがあったし、夢みたいで好きだった。
 戦争には、夢なんてないもの。リアルでつらい話ばかり。それに負傷する場面なんて観たくなかった。大人になると、だんだん慣れてきちゃったけどね。
 今じゃラブ・ストーリーはフツウに観て楽しみます。でも戦争映画は、やっぱりちょっと構えちゃう。『プライベート・ライアン』なんて、かなり迫力あったし、怖かった。
 ところが、自分が作る映画がまさか戦争を舞台にした恋愛映画になるとは!
 『白痴』って映画は、とにかく作りたくて作りたくて、10年もかけて無理やり作ってしまったのだけど、これが見事に戦争映画。
 戦争体験がないのに戦争の場面を描くのって、けっこうタイヘンでした。
 当時の体験談をたくさん読んだり聞いたりして、資料から組み立ててゆくのだけれど、どんなに頑張っても、当時を体験した人の記憶の印象にはかなわない。
 だったら思い切って、自分の考えた戦争にしてやれって、想像の戦争映画になった。
 昔のハナシというんじゃなくて、現代に起きてもフシギはないんだってキモチで観ると、よりリアルに感じられるんじゃないかな。
 手塚治虫の漫画って、よく戦争が出てくるよね。戦争のこと、ホントウに知らない若いヒトや、戦後生れの親たちには、ぜひ読んで知ってほしいですね。
 だって終戦記念日って、戦争が終わって良かったって日じゃなくて、戦争のことみんなが忘れないための日だものね。
(手塚眞監督作品『白痴』DVDは8月25日発売。)

ヴィジュアリストとしての手塚眞の活動やエッセイが読めるのはこちらです。
よかったらどうぞ。
http://www.neontetra.co.jp

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