アニメ『メトロポリス』がようやく完成し、公開の運びとなりましたネ。 とにかく、あの映像の素晴らしさは何度観ても感動ものです。特に一番のミドコロであるクライマックスシーン!ティマが巨大マシンと同化してゆくあたりの、あの圧倒的なグルーヴ感といい、また次第に顔がグロテスクに崩れ、狂った化け物に変貌してゆくティマのリアリティといい、もうゾクゾクと身の毛がよだつほど引き込まれます。そんな心臓バクバクなクライマックスの頂点で、突如フルボリュームで流れるレイ・チャールズの「I can‘t stop loving you」。あれはもうスバラシ過ぎて、腰ぬけちゃいますってば!いや、大袈裟じゃなくて。 あんな悲劇的なラストシーンだというのに、あの曲のおかげで、不思議なほど心が安堵感に満たされるんですね。心臓バクバクの緊張状態から、思いもかけず心が解放されて、脳内セロトニンがめいっぱい溢れ出たんでしょうかね?ここで思わず泣いた人は多いのではない? とにかく、この場面のこの曲を聴かせる為だけに、この映画は作られたんじゃないか?って思ってしまうほど、「I can‘t stop〜」は観る者の心をワシ掴みにしちゃうんですね。 先日、あるラジオ番組で、今回の音楽を手掛けた本多俊之さんと話すことがありました。最初オファーがあった時、監督はジャズオンリーでサウンドをまとめたかったんだそうです。そしていかにもアニメっぽい曲はNGだと。そして「こんな感じで」と自ら選曲したジャズをいろいろ本多さんに聴かせたんだとか。ジャズのご本家相手に…。なんだか、「ジャングル大帝」の音楽を冨田センセイに依頼する時に、手塚が「こんな感じで」と目の前でピアノを弾いてみせた、あのエピソードを思い出させる話ですね。でも、それだけ監督は作品の全てに対して自分なりのこだわりをもっていたわけで、その監督のこだわりや意気込みは、本多さんまでをも感電させちゃったようです。監督と打合せしたその日のうちに、本多さんはテーマ曲のメロディが頭に浮かんだんですって。以心伝心って感じ? そういえば、私がマッドハウスの丸山さんから初めてパイロット版を見せてもらった時、すでに仮の音楽としてジャズサウンドが載せられていたっけ。その時から監督はジャズ、そしてレイ・チャールズを絶対に使う気でいたのでしょうね。 とはいえ、本多さんが音楽を任されたうえで、デキシージャズだけでなくオーケストラも取り入れたことや、シーンによっては四つ打ちやドラムンベースといったリズムサウンドを演出したこと、また「I can‘t stop〜」と対になる主題歌を作ろうと監督に提案したことは、どれも監督の設計図以上の完成度を、この『メトロポリス』にもたらすことになったわけです。どんなシーンでも実に効果的なサウンドが作られ、映像の美しさや迫力をまた一段と引き立ててくれてます。確かに『メトロポリス』は見事なまでのCG映像に目を奪われる作品だけど、その背景に流れる数々のサウンド…木村充揮さんのハスキーボイスやミナコさんのジャジーな歌声、そして レイ・チャールズのあの歌が無かったら、まったくもって味気ない映画になっていたと思う。(あ、あと監督の絶品なクラリネットソロも無くてはならないネ!) 思い返せば私は、『メトロポリス』の音楽を坂本龍一さんか細野晴臣さん、あるいはケンイシイさんあたりに作らせてはどーか?といった、図々しくも無謀な提案を丸山プロデューサーにしていたんですね。近未来の物語だからサウンドはテクノだなんて、なんともお粗末な発想だーね? むしろジャズやボーカルといった人間らしさのあるアナログサウンドこそ、この作品には相応しかったと、今は思えるもの。でもね〜、デトロイトテクノの重鎮ジェフ・ミルズが、フリッツ・ラングの 『メトロポリス』をリプロデュースした時のサントラがあまりにカッコ良かったもんで…。思わずテクノと…。 |