『おひなまつり』



我が家には妹が生まれた年に買った“豪華絢爛七段飾り”のお雛様があって、子供の頃は母と私たちとで1日掛かりでセットしたものだ。富士見台の家では父の書斎下にある座敷に飾ってたので、この時はさぞかし煩くて父も迷惑していた事だろう。また、この日は必ず母が子供たちの為に、お内裏様とお雛様の格好をした茶巾寿司を作ってくれていた。うずらの卵の顔に黄色い薄焼き卵の衣を着せて、可愛くて食べるのが勿体無いくらいだった。父も見事に飾り終えた雛壇を前にすると気分が盛り上るのか、仕事の手を休めて私たちと過ごしてくれる。「左大臣はなんで一人だけ笑ってるのか」「官女の道具はどう使われて たのか」そんな父なりの講釈(半分はデタラメだが)は実に面白かった。そんなお雛様も もう何十年と仕舞い込んだままだ。何を思ったか母が「今年は出そうかしら?」と言ったので「ただでさえ嫁に行き遅れてる娘がいるのに冗談じゃない!」と私が止めさせた。

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