鳥人大系
解説:
(手塚治虫 講談社刊 手塚治虫漫画全集『鳥人大系』2 あとがき より)SF作家クラブが、故福島正実氏のリードで毎月一回例会をひらいていた頃、SFマガジンの副編集長だった森さんも必ずそこに出席していて、
「手塚さん、本誌にまた連載を…。」
と何度かたのまれ(以前「SFファンシーフリー」をかいてから、もうかなりの時間がたっていた)、一心奮起して、大長編大河SFスペクタクルロマンをかこうと決心したのです。
ぼくは、ブラッドベリのおなじみ「火星年代記」と、シマックの「都市」の、ご多分にもれず、かなり熱烈な愛好者でした。漫画でひとつ、あのようなエピソードの連作形式で、超人類の歴史をえがきたいと思っていたやさきだったので、
「じゃあ、『鳥人年代記』というタイトルにいたしましょう。」
といってしまって、予告にでてから、「しまった!」と思いました。
鳥人に関しては、すでにかなり昔「ロック冒険記」で、エプームというキャラクターをだしてしまっているのです。
あれの二番煎じになったら、SFマガジンにのせる意味がありません。
そこで、人間と鳥とのかかわりから、さりげなく始めることにしたのです。
読みどころ:




雨ふり小僧
解説:
(手塚治虫 講談社刊 手塚治虫漫画全集『タイガーブックス』8巻あとがき より)(前略)
この短編集にふくまれたものは、主に集英社の「少年ジャンプ」を中心にした読み切りですが、小学館や旺文社その他のものも雑然とはいっています。主として人情劇というか、センチメンタルな内容のものが多く、動物を扱ったファンタスティックな作品が主体になりました。また、一連の民話のバリエーションもありますが、これは、あまりにSFものがつづいたための肩ほぐしにかいて、けっこうたのしかったのでつづけているのです。そして、手塚にもこんな一面があったのかと評価してくだされば幸いです。(中略)
「雨ふり小僧」(第3巻)「はなたれ浄土」(第8巻)「てんてけマーチ」(第5巻)「いないいないばあ」(第7巻)は、柳田国男氏や、そのほかの著者の民話から変形させた作品で、もとの話をご存知のかたは、その手塚流味つけをご賞味ください。
(後略)
読みどころ:

分教場に通う主人公のモウ太には、同級生がいません。そのモウ太の前に突然、ボロボロの傘をかぶった小さな妖怪があらわれます。「雨ふり小僧」と名乗るその妖怪は、モウ太のゴムのブーツとひきかえに、3つの願いをかなえると言います。モウ太は雨ふり小僧にブーツをあげる事を約束して、3つの願いをかなえてもらうのですが…。



火の鳥 少女クラブ版
解説:
(手塚治虫 講談社刊 手塚治虫漫画全集『火の鳥 少女クラブ版』あとがき より)少女クラブに連載していた「リボンの騎士」が終わったころ、ぼくはアメリカ映画の「トロイのヘレン」とか「ピラミッド」とかいった史劇をたてつづけに見ていました。
そして、そういったスペクタクル=ロマンを、ぜひ少女ものにかきたいと思っていました。「火の鳥」を連載しないかという話があったとき、とっさに思いついたのは、ヨーロッパの歴史を大河ものにすることでした。そして、アイディアは、そういったアメリカ映画のスペクタクル=ロマンとむすびついていきました。
それで、エジプト編がはじまったわけです。
漫画少年の「火の鳥」とちがって、やたらと甘く、やたらと恋や愛が出てくるのは、はじめから「リボンの騎士」のファンを意識していたからです。
かいていていちばんつらかったのは、やはりトロイ戦争の場面でした。ところが、この別冊ふろくのとき、ぼくは九州の宿へカンヅメになっていました。群衆シーンがつづくのに、しめきりにまにあわず、やむをえず代筆になってしまったりしました。その代筆はおもに内野澄緒(うちのすみお)さんでしたが、九州のときは、高井研一郎さんとか、松本零士さんたちに手伝ってもらいました。もちろん、まだお二人とも高校生のころのことです。
松本さんがせっせとかいた群衆シーンが、あまりにギャグっぽかったので、少女クラブの編集部でボツにしてしまったりしたのも、今では思い出話です。
読みどころ:

物語は、エジプトの王子・クラブと、女奴隷・ダイアの2人の恋物語と冒険が軸となり、それと並行して、火の鳥の子供・チロルの成長物語が描かれています。
最初の舞台は、今から3000年前のエジプト。クラブとダイアは、洪水に流されそうになっている火の鳥の卵を偶然助けたことから、そのお礼として火の鳥の血を飲ませてもらい、3000年の間死なない体になります。しかし、エジプト王暗殺の陰謀に巻き込まれた2人は国を追われ、スパルタからトロヤへと、運命に流されるままに彷徨(さまよ)うこととなりました。

そして、なんといってもこの作品は、絵の魅力が実に大きいのです。チロルの可愛らしさ、鳥達のダンスシーンの見事さ、ウサギ・キツネ・亀その他、動物たちのいきいきとした姿…。そしてもちろん、小物からキャラクターの衣装、背景にいたるまで、外国映画を「手塚流スペクタクル=ロマン」として消化し、再構築したその手腕。「火の鳥」シリーズのなかでは異色作であるものの、少女ものとしても、ファンタジーものとしても、間違いなく代表作の1つだといえるでしょう。

シュマリ
解説:
(手塚治虫 講談社刊 手塚治虫漫画全集『シュマリ』あとがき より抜粋)ぼくには「勇者ダン」という、アイヌの少年を扱ったSF作品があります。
再び青年誌でアイヌ問題を扱おうと考えたのは、「北海道開拓誌」という本で、上川地方のアイヌ大集落の悲惨な歴史を読んだからでした。それもあくまでも内地人の立場から一方的にかいたもので、逆にアイヌ側からかけば、およそちがった内容のものになるだろうと思いました。それで明治初期に、堂々と侵略者である内地人と対決した架空のアイヌのヒーローをえがいてみたい気持ちになりました。
だから、主人公のシュマリは、はじめの構想ではアイヌと内地人の混血の青年だったのです。
それが、どたん場で急に幕府のもと旗本になってしまったのは、アイヌ問題は、かるがるしく漫画やフィクショナブルな物語では取り扱えない、複雑で、重大な問題を含んでいて、しかも征服者である内地人であるぼくが、被害者であるアイヌの心情などわかるはずがないと悟ったからです。
もちろん、この物語の予告を読んだアイヌのかたがたから、内容はきわめて注意をするように、と忠告されたことにもよります。
それまでにたてていた構想をすっかりひっくり返し、白紙に戻して、タイトルだけ残してあらたに筋立てをするのは、おそろしくやっかいなことでした。そして、まずそれはもとの構想よりも上等な作品に生まれるはずがありません。
そのうえ、連載をしつつも、編集部で何度もセリフの変更をされるのでした(編集部にも、アイヌのかたから注意があったそうです)。
で、結局完成した作品がこれです。シュマリはたいへんあいまいな性格の、ぼく自身乗らないヒーローになりました。
ウエスタン調の、この開拓裏面史は、中央政府が薩長によって確立される前後の、余震のような出来事といえます。
じつは、この物語をかく前は、ぼくはたった一回、それも漫画集団のサイン会のために北海道へ行ったきりなのです。ことに、石狩平野の一部である千歳あたりさえ、まっくらな夜中に通っただけでした。だから、画面はほとんど全部頭の中でデッチあげた当時の北海道です。(後略)
読みどころ:

主人公は、野生的でありながら剣の腕も立つ男・シュマリ。彼はもともと内地人ですが、先住民のアイヌ人に敬意を持ち、親しく交流していました。ちなみに「シュマリ」とは、「キツネ」を意味するアイヌ語です。彼が北海道へ渡ってきた目的は、逃げた妻・妙(たえ)と、相手の男を探し出すこと。




火の鳥 生命編
解説:
『火の鳥 生命編』は、「マンガ少年」昭和55年8月号~12月号に掲載されました。読みどころ:



また、物語の途中から孤児の娘・ジュネが登場し、青居とともに野性の中で生活する事になりますが、そのジュネ個人の運命に収束されていくラストシーンの味わいは、壮大なスケールの「火の鳥」というより、むしろ「ブラック・ジャック」のような秀作短編に似ているといえるでしょう。






