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虫ん坊 2018年03月号 オススメデゴンス!:『山太郎かえる』

はじめに:

 春の訪れに、そろそろ動物たちも冬眠から目覚める頃ではないでしょうか?
 今回のオススメデゴンスは、手塚アニマル作品から『山太郎かえる』をご紹介。
 機関車が小グマを子守!? 一見奇妙な組み合わせのコンビが贈る、心温まるちょっと切ないストーリーです。



解説:

 『山太郎かえる』は、「月刊少年ジャンプ」1980年1月号に掲載されました。



マンガwiki作品紹介:

キャラクターなど詳しい情報はこちらから



読みどころ:

 手塚治虫の動物マンガには、『ジャングル大帝』のようなファンタジックなものから『動物つれづれ草』のようにリアルなものまでさまざま、取り揃えられているのですが、この『山太郎かえる』は、ちょうどファンタジーとリアルの真ん中ぐらいに落ち着く、小説でいったら『ごんぎつね』や椋鳩十の短編などを彷彿とさせる作品です。
 事故と山狩りで親グマを亡くし、人間に飼われていた小グマの山太郎と、蒸気機関車「しい六」の奇妙な友情の物語。人間の作ったものでありながら、どこか人間を超越した力の象徴のような蒸気機関車しい六は、山太郎に野性の力の尊さや、クマとしての尊厳を教えます。


虫ん坊 2018年3月号 オススメデゴンス!:『山太郎かえる』

みなしごとなった山太郎と、C62型SL蒸気機関車のしい六。よくみると、しい六はコマごとにちゃんと表情が違うんですよ。


虫ん坊 2018年3月号 オススメデゴンス!:『山太郎かえる』

弱気な山太郎に「自由になるんだ」と諭すしい六。軒先に大きなクイで繋がれた山太郎に、決して手を差し伸べることはせず激励し続け、山太郎はついに自分の力でクイを抜き、自由の身になれたのです。

  蒸気機関車といっても、今の読者にはピンとこないかも知れません。
「しい六」と同型であるC62型SLは、かの『銀河鉄道999』の客車を引っ張っていたあのSLのモデルでもあり、1948年に完成、東海道線や常磐線など、さまざまな路線を走った花形機関車だったものの、作中にも少し触れられているとおり鉄道の「電化」によって次々と表舞台から撤退し、1960年代にはわずかに北海道を走った後、ついに1976年、北海道鉄道記念館に保存されたそうです。


虫ん坊 2018年3月号 オススメデゴンス!:『山太郎かえる』


虫ん坊 2018年3月号 オススメデゴンス!:『山太郎かえる』

山太郎のつながれていたお店は根室の操車場の近く。ということは、「わしはまだ若いんだ!」といいながら車庫に保存されてしまったしい六さんも北海道で活躍していたC62型の一台だったのでしょう。

一方、こぐまの山太郎はひょっとするとロシアあたりから流れてきたヒグマなのかも知れません。どちらも当時の北海道の名物で、彼らの取り合わせは奇妙ながらもちゃんと必然性のあるものでもあるのです。蒸気機関車とクマが自由に会話を交わす一方で、そういったリアリティが保たれているところが、この作品の独特の味わいとなっています。

 なお、この作品は1989年に『ライオンブックス』シリーズの一環としてアニメ化もされていますので、原作を読んで気に入った方は、そちらも是非見てみてください。



注目の一コマ:

虫ん坊 2018年2月号 オススメデゴンス!:『ロップくん』

 街から逃げ出した山太郎は、しい六につれられて山へと向かいます。まさに、“山太郎かえる”な一コマです。
 なぜ海からやって来たのに「山太郎」と名付けられたのかは、残念ながら作中ではなにも言及されていませんが、 いつかは山に返してやろうという、人間たちによる思いが込められていたのかもしれません。
 ちなみに山太郎が持っているのは、しい六からの餞別である、好物のハチミツです。


作中の名セリフ:

虫ん坊 2018年2月号 オススメデゴンス!:『ロップくん』

山太郎&しい六:「ボォーーーー」


 しい六の鳴らす汽笛を真似する山太郎をご覧ください。
 動物の子供は、よく親の真似をすると言われていますが、もう、これはしい六を親同然だと思っているに違いない!
 動物、機関車という種族(?)を超え、もはや父と子同然のような、あるいは親友といった強い絆で結ばれたと言っても過言ではない2人ですが、 ラストではこの汽笛の真似が物語の展開に大きく関わってくるのです。美しくも切ない友情の行く末を、しかとその目で確かめてください!




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