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虫ん坊 2018年2月号 特集2:集英社オレンジ文庫×手塚プロダクション 『雪があたたかいなんていままで知らなかった』インタビュー

虫ん坊 2018年2月号 特集2:集英社オレンジ文庫×手塚プロダクション 『雪があたたかいなんていままで知らなかった』インタビュー

 集英社オレンジ文庫と手塚プロダクションのコラボレーションで、完全オリジナルの新作小説が登場しました。
 タイトルは、『雪があたたかいなんていままで知らなかった』。津軽の高校生三人と、幽霊の美少女が出会う、ちょっと不思議な青春小説です。作者の美城圭さんは、この作品が小説デビュー作とのことで、前作ナシ、事前情報ナシの「謎の新人小説家」。
 手塚プロダクションと集英社オレンジ文庫のコラボレーションって? 作者はいったいどんな人なの? いったいどんな作品なの……? 関係者のみなさんに新座スタジオに集まっていただきました!




虫ん坊 2018年2月号 特集2:集英社オレンジ文庫×手塚プロダクション 『雪があたたかいなんていままで知らなかった』インタビュー

インタビュー当日の新座は、ご覧のとおりの大雪です。

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足元の悪い中、ありがとうございます。まずは簡単に、自己紹介をお願いします。


美城圭さん :
(以下、美城)

作品を書かせていただきました、美城圭です。


手賀美砂子さん:
(以下、手賀)

集英社オレンジ文庫で編集長をしております、手賀です。


宇田川 :

手塚プロダクションの宇田川です。


―――

今日は作家、編集者、マネジャーとこの作品に関わったみなさんにいろいろお話をききたいと思います。……まずは、手塚プロダクションから、手塚原作ではないまったく新しい作品、それも小説作品が出た、ということで、どのようないきさつから企画が生まれたのか、教えてください。


宇田川 :

この作品は、手塚プロダクション制作局が開催している企画会議で生まれた企画です。手塚プロでは、10年ほど前からアニメーション監督の高橋良輔氏を招いて、自社発信のアニメーション制作企画会議を実施してきました。高橋さんがリーダーになり、社内のクリエイターが集まって、いろんな企画を出し合うんです。もちろん、手塚治虫の作品を原作とした企画もあれば、今回のように全くオリジナルの企画も出せるような、自由な発想の会議です。
 美城さんとは、以前からなんどかうちの会社の作品で仕事をしてもらっていましたが、その企画会議にも参加してもらっていました。その中で、4年ほど前に美城さんから出てきた企画案が、今回の作品の原型です。


手賀 :

1996年に出たノベライズ版の『こどものおもちゃ』を担当させていただいたことから高橋良輔監督とご縁がありまして、この作品をご紹介いただき、編集・出版の方面でコラボレーションさせていただくことになりました。


美城 :

企画は初め、映像作品として考えていました。企画だけのところから映像化に持っていくのは難しいから、まずは形にしてみたら、と言われ、小説にしたんです。小説を書くのは初めてでしたが、2、3ヶ月ほどをかけて書きあげたものが、今回の作品のベースになっています。
 作品が出来たのが2016年の5月ごろで、その後の企画会でまた会議メンバーに読んでもらって。その後、10月ごろ、手賀さんとお会いして、お話が具体的になってきて。


手賀 :

読んでみてまず内容に非常に引きがあり、一気に読ませる力がありました。最近の流行のご当地ものでもあります。登場人物は高校生ですが、彼らの視点もごく自然で、登場人物と同世代ぐらいの読者にアピールできる内容だと思いました。


虫ん坊 2018年2月号 特集2:集英社オレンジ文庫×手塚プロダクション 『雪があたたかいなんていままで知らなかった』インタビュー

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小説としては初めての作品、ということですが、難しかった点はありますか?


美城 :

まず、いったいどうやって書けばいいのかがよく分からなくて、三人称で書いてみたり、一人称で書いてみたり試行錯誤していました。最終的に今の形に決めるまでに、一番時間がかかりました。


手賀 :

各登場人物の視点から一人称で書かれる作品は、最近では珍しいですね。今は三人称で描写する作品が多いんです。一人称で書くときに難しいのは、主人公以外の人がいったいどんなことを考えているのか、を原則的に詳しく書けないところですよね。


美城 :

今回の作品では、同じ出来事でも体験した人の立場や個性によって印象が違うということも書きたかったので、一人称をそれぞれ持回る手法にしました。特に冒頭、澤村千尋と岩木治が出会うところでは、同じシーンをあえて二つの視点で描いてみました。


虫ん坊 2018年2月号 特集2:集英社オレンジ文庫×手塚プロダクション 『雪があたたかいなんていままで知らなかった』インタビュー

手賀 :

ストーリーは初稿からほとんど手直ししていません。ひとつだけ手を加えたのは、初めにいただいた原稿では主人公の3人に加えて、雑賀未来という東京から来た女の子の視点が入っていたんですが、これでは物語のテーマがぶれてしまいそうだったので、変更してもらいました。


―――

どうやって、ストーリーのアイディアやキャラクターのアイディアを膨らませたのでしょうか。


美城 :

今回のお話は、ある日バスに乗っていたときに、ふと、「この道路の真ん中に女の子がいたら……」と考えたんです。彼女はどうして、道路の真ん中にいるんだろう。普通の人間なら危ないじゃないですか。もしかしたら幽霊なのかも……、じゃあ、どうしてあんなところにいるんだろう、いったい何者なんだろう……というふうに、想像をつぎつぎに重ねて、答えを考えていくんです。


虫ん坊 2018年2月号 特集2:集英社オレンジ文庫×手塚プロダクション 『雪があたたかいなんていままで知らなかった』インタビュー

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この作品の舞台は弘前ですよね。青森に何か、思い入れがあるのでしょうか。


美城 :

弘前の雰囲気が好きなんです。弘前って、東北の地方都市ですけど、素敵なカフェがたくさんあって、コーヒーがおいしいんです。学者さんや特権階級を除けば、日本で初めてコーヒーを飲んだのは、弘前藩士だという話もあって……。


―――

コーヒーがお好きなんだな、ということが、プロフィールの文章からも伝わってきます。でも、なぜまた、津軽のさむらいがコーヒーを飲んだのでしょう。弘前藩、ということは、明治維新前ですよね。


美城 :

そうですね。当時、幕府の命を受けて、主に弘前藩士が蝦夷地の警備にあたったらしいのですが、その時に、寒さやビタミン不足による浮腫病を防ぐための薬として支給されたのがコーヒーだったんです。まあ、それは余談ですが、津軽に関しては、知り合いに津軽の名家の方がいて、その方から聞いた話が、澤村家という、地域に影響力のある津軽の家を舞台にするきっかけになったのだと思います。


―――

重要なキーパーソンとして、イタコのおばあさんが出てきますよね。幽霊の話だから青森にした、というところもあるのかな、と思ったのですが。


美城 :

東北の霊的な雰囲気はもともと好きですね。岩手の『遠野物語』に出てくる不思議な話とかも興味があります。


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―――

この作品の一番のテーマというのは、どういうものだ、と考えていますか?


美城 :

人とかかわることによって、人は変わっていくものだ、と常々思っていて、それがこの作品でもメインになっています。でも、それってごくあたりまえのことで、テーマ、っていうほど大げさな物じゃないですよね。


―――

変更不可能な一本道じゃなくて、良い方向にも悪い方向にも、人との出会いによって変わっていく、という……。


美城 :

必ずしも望ましい方向に変わるばかりじゃないとは思いますが。


―――

それは、美城さんご自身がそういう経験をされたからですか?


美城 :

そういったことは多々あると思います。でも自分を作品に投影するつもりはなくて、キャラクターが物語の中で人と出会うことで成長して欲しいと思って書いています。まあ、そう思っても書いているのは自分なので、知らないうちに自分の経験、入っているかも知れませんが。


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mochaさんによるキャラクターたちを描いたイラスト。

―――

オレンジ文庫というレーベルについてお伺いしたいと思います。オレンジ文庫は「ライト文芸」のためのレーベルということですが、「ライト文芸」とはどういう作品の事をいうのでしょうか?


手賀 :

純文学や、ミステリーやSFなどのいわゆるジャンル小説には分類できない、キャラクターが魅力的なエンターテイメントの小説の総称として、弊社でつけた呼称です。
 ライトノベル、というジャンルも皆さん聞いたことがあると思いますが、その源流は弊社のコバルト文庫や朝日ソノラマの朝日ソノラマ文庫、徳間書店のアニメージュ文庫などの10代を読者層にした小説レーベルです。80年代から90年代には多くの新興レーベルも登場し、大いに盛り上がっていきました。メディアワークス(当時)の電撃文庫などが登場したのもこの頃ですね。
 その後、電撃文庫などの少年向けは「萌え」展開のあるアクションや青春もの、コバルト文庫をはじめとした少女向けは恋愛小説、と内容が特化し、作品も読者も先鋭化していくのですが、そこにもっと幅広い読者に読まれる作品群が登場しました。代表的な作品としては、三上延先生の『ビブリア古書堂の事件手帖』ですね。これがヒットしたことで、「ライト文芸」というジャンルが認知されはじめました。
 オレンジ文庫の創刊は2015年ですが、それ以前からそういう流れはあったんです。
 私ももともとは、コバルト文庫の編集部にいました。


―――

コバルト文庫……! 90年代のティーンにとってはバイブル的存在ですね! 恋愛小説が確かに多かったですが、一方で若木未生先生の『グラスハート』のような恋愛要素よりもストーリー性が重視された作品もあって、とても楽しみにしていました。


手賀 :

実は、コバルト文庫の編集部は、いわゆる文芸畑とはまったく違うところから発生しているんです。もともとは1965年のジュニア向けの叢書『コバルトブックス』から、文庫レーベルが出来ました。この叢書はコミック部門から出たので、今でもコバルト文庫の編集部はコミックの編集部と近いフロアにいるんです。
 ちなみに、コバルト文庫は2016年に40周年を迎えた創刊1976年の老舗レーベルで、弊社の文芸文庫レーベル・集英社文庫より古いんですよ!
 編集の方法も、著名な先生に原稿依頼をかけるのが主流の文芸書とちがって、書き手は新人賞で選出し、発掘した作家を編集部で育成してヒットを出すスタイルが主流なんです。ちょうど、『週刊少年ジャンプ』などで新人賞を募集し、連載をしていただく形と同じですね。


―――

『週刊少年ジャンプ』における「手塚賞」のような……。そういえば、この本の巻末にも、新人賞の広告が入っていますね。だいたい、1回の賞に何通ぐらいの応募が来るのでしょうか。


手賀 :

直近では1000通前後です。そこから1次選考で100本、2次選考で30~50本、3次選考ではそれを編集部全員で二回に分けて読み込み、最終選考で先生方に読んでいただく作品を5、6本に絞っていくんです。編集部では3、4人のチームに分かれてもらい、チームの担当作品を全員で読んでディスカッションをするのですが、これがけっこう白熱するんですよ。
 他にも、今回のようにご紹介いただくこともあります。
 小説の良いところは、担当編集者と編集長、作家が面白いと思えば、少人数の判断でも出せるところです。もちろん、ビッグビジネスにはなりづらいなどの欠点はありますが、その分実験や冒険もしやすく、さまざまなタイプの物語を楽しむことができるジャンルだと思っています。


虫ん坊 2018年2月号 特集2:集英社オレンジ文庫×手塚プロダクション 『雪があたたかいなんていままで知らなかった』インタビュー

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新しい作家をデビューさせ、売っていくというのはなかなか難しいと思いますが、どのような工夫をされていますか?


手賀 :

表紙でなるべく内容について説明するように心がけています。装画で作品の雰囲気やジャンルを、帯などで読みどころやアピールポイントを、そしてタイトルは内容を想像しやすく、なおかつ心に引っかかるような、目の滑らないキャッチ―なものを付けるようにします。
 装画は色遣いや画風などでどんなジャンルの作品かを一目でわかるようにします。ホラーなら暗めの配色とか、今回のような青春小説ならパステルカラー基調の優しい絵柄にする、などといった工夫ですね。


―――

装画をmochaさんに決められたのは、なぜですか?


手賀 :

このお話は岩木山がキーになってきますので、背景を魅力的に描かれる方にお願いしたいと思っていました。作者の美城さんと何人かのイラストレーターの方のポートフォリオを見て、mochaさんにお願いすることにしました。


宇田川 :

この点はすべて集英社さまにお任せして、手塚プロダクションからは一切、リクエストは出しておりません。


―――

今回の『雪があたたかいなんていままで知らなかった』というタイトルはどのように決まったのでしょうか? 「雪」という冷たいイメージの言葉を「あたたかい」という、反対の言葉で形容していて、面白いです。


手賀 :

いくつかタイトル案を美城さんに出していただき、決めました。


美城 :

企画会議で題名をどうしようという話になった時、高橋監督が、「例えば雪があたたかいとか……」と一言。それを聞いた瞬間、「頂きます!」って……。それを第一候補にして幾つかの案を手賀さんにお送りして、最終的にこれに決定しました。


手賀 :

ちなみにタイトルは「4文字で略せる言葉なら勝利」、ということになっています(笑)。「キミスイ」とか「セカオワ」とか、長いタイトルほど4文字に縮めるという定石がありますね。この作品も、社内では「雪知ら」と呼んでいます。


宇田川 :

この作品は、元は映像企画会議から生まれたので、当初からアニメーション化を前提に考えていました。そこで、まずは1分程度のプロモーションムービーを手塚プロダクションで作り、宣伝に活用いただこうと思っています。

―――

ちなみに、ヒットの法則などはあるのでしょうか?


手賀 :

売れるかどうか、は本当に出してみないと分からないです。もちろん、マーケティングなどは綿密に行っていますが、それでわかるのはある程度までで、ある作品に対して、「売れるか、売れないか」を本屋さんに並ぶ前に判断するのは、ほぼ不可能です。
 そつなくきれいにまとまった作品より、多少型破りでも、パンチの利いた作品を出そう、とは思っています。先ほどお話しした新人賞の選考会でも、評価が極端に二分する作品と、みんながまあまあ良いという作品のどちらかを選ばなければならないとしたら、前者を推します。


―――

次回作のご予定はありますか?


美城 :

まずはこの小説がみなさんにどれぐらい読まれるのか、を集英社さまのほうで見極めて頂いたうえで、続編が出せるかどうか、だと思います。


手賀 :

実はこの作品の続編のお話も検討しています。続編を出すためにもまずはこの作品が多くの方に読まれてほしいですね。

(C)KEI MISHIRO/株式会社手塚プロダクション 2018 挿画/mocha



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