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虫ん坊 2017年12月号 特集2:手塚治虫文化祭 キチムシ’17 アフターレポート

虫ん坊 2017年12月号 特集2:手塚治虫文化祭 キチムシ’17 アフターレポート


 この記事を読むまで文化祭は終われない!?
 今年で3回目を迎え、連日盛況のうちに終えた手塚治虫文化祭「キチムシ’17」。毎回、様々なクリエイターが手塚治虫しばりのコラボレーション作品を創作し、出展しております!
 虫ん坊では、昨年に引き続き、アフターレポートをお届け!
 今回はなんと、ご夫婦で参加された青木俊直氏と谷川史子氏のほのぼの対談に加え、初出展された先生方のコメントも一挙掲載と、特別豪華な2本立てとなっています!!

 ●Special 1 青木俊直氏×谷川史子氏 ご夫婦対談
 ●Special 2 キチムシ’17 特別寄稿コメント




●Special 1 青木俊直氏×谷川史子氏 ご夫婦対談


虫ん坊 2017年12月号 特集2:手塚治虫文化祭 キチムシ’17 アフターレポート

今回の対談を記念し、お二人に特別に書き下ろしていただいた似顔絵イラスト!

 プロフィール


 谷川史子 氏

まんが家。長崎県出身。
1986年『りぼんオリジナル』(集英社)にて「ちはやぶるおくのほそみち」でデビュー。
以後『りぼん』(集英社)にて、少女の恋心をみずみずしく描いた作品を多く発表。
著作に「きみのことすきなんだ」「くじら日和」「積極-愛のうた-」「手紙」「清々と」「告白物語 おおむね全部」など多数。現在『ココハナ』(集英社)にて「はじめてのひと」を、『Kiss』(講談社)にて「おひとり様物語」を連載中。
 青木俊直 氏
1960年生まれのアニメ版アトム世代。
マンガ描いたりお絵描きしたりしてたらもうこんな歳!
ここ数年キャラクターデザインの仕事を多くいただいています。
アニメーション映画「きみの声をとどけたい」キャラデザ
NHKアニメドキュメント「女川中バスケ部5人の夏」キャラ原案
DMMゲーム「がるメタる!」キャラデザ・マンガなど。
12月28日には久しぶりのコミックス「ripple」発売!


文化祭とキチムシ・マジック


―――キチムシ’17、大盛況でしたね。


青木俊直 氏 :(以下、青木)

キチムシのような合同展は楽しいですよね。いろんな人が参加するから。
 個人的に3回目の面白さは松田洋子・清田聡夫婦につきると思うんですよ。もともと面白い人たちなんですけど、手塚キャラの焼印を押した革のグッズだったり、アトムやピノコの泣き顔シリーズのコンセプトがすばらしく、あの場の雰囲気を彼らが作ったと思う部分がありました。そこに諸星大二郎先生も加わって更にすごいことになるという(笑)。


谷川史子 氏 :(以下、谷川)

最初は会期中、ところどころで参加できたらという気でいたんですが、なんだかんだ合間を縫って、毎日のようにギャラリーにいましたね。
 あまり描くのが速いわけではないのですが、直接お声掛け下さった方にはできるだけサインなどにお応えしたいなあと。
 私は普段ひきこもってチャージするタイプなので、はじめは参加者同士でも知らない方も多く、転校生のような気持ちだったんですけど、皆さんがとにかく気さくで。「おはようございます」「お疲れさまです」って挨拶をしあって、だんだん顔も馴染んできてお話をするようになって、まるで学園祭のような感じで、すごく楽しかったです。


青木 :

諸星先生もその場の流れでサイン会を行ったり。最終日は島本和彦先生も来られて、島本先生の場合はサインじゃなくて、絵を描くんですよ。その姿が島本先生御自身のマンガのキャラのようで(笑)。


谷川 :

会場に来たお客様も、よもや諸星先生がいらっしゃるとは思いませんから、ラッキーでしたよね。滅多にサイン会もなさらないそうですし。これもキチムシ・マジックですね。


青木 :

びっくりしたのが、谷川が最終日に絵を追加したでしょう。あれは完全にキチムシ・マジックにヤラれているなって思いましたね。


谷川 :

驚いたんですけど、会場に足を運ぶたびに、みなさん追加で新作を作ってくるじゃないですか。あの熱気にすっかり当てられてしまって……。
 私のコーナーには、グッズに使用した原画を展示しましたが、展示をするまえにいろいろコピーを取っておいたんですよね。主線だけの白い絵をジーッと見ていたら、ここをこうカットして色を塗ると作品になるんじゃないか、とか創作意欲が湧いてきてしまったんです。


青木 :

自発的に何かやろう、っていうのも学園祭の感覚ですよね。乗った方が面白い。
 基本的に谷川は30年間、オーダーによって絵を描くということをやってきていて、今回のように自発的に絵を描くことはあまりなかったんじゃないですか?


谷川 :

確かにそうかも知れない……。私は仕事で出し切ってしまうと、しばらくはそれ以上何も出なくなってしまうんです。世の中に出すものに関しては、すべて仕事だと思ってしまうというか、字だろうが絵だろうが、責任を持たなければいけない、とガチガチに考えてしまうんです。
 作家でもいろいろなタイプがあるとは思うのですが、青木が、毎朝、しょっちゅうiPadで一枚絵を描いているのをみて、なんて偉いんだろうって。
 キチムシでお客様から「サインしてください」って言われたときに、ササッと描けるのも日頃の鍛錬の賜物で。アスリートが毎日のトレーニングを欠かさないのと同じようなことをこの人はしているんだな、と再確認しました。


モチーフと絵について


―――トリビュート作品の制作過程について、『ブラック・ジャック』、『火の鳥』、『三つ目がとおる』など、それぞれのモチーフを選んだ理由をお聞かせ下さい。


谷川 :

私が手塚先生の作品に初めて触れたのは、小学生のときに読んだ『三つ目がとおる』と『ブラック・ジャック』なんです。モチーフはこれしかない! と他に思い浮かばいくらい、この2作品はゆるがなかったですね。
 兄の影響で少年誌も読んでいた私にとって、昔からすごく好きな作品だったんです。


青木 :

最初に『三つ目がとおる』が描きたいって言っていたんだよね。和登サンと写楽くんが描きたいというところからはじまって、そのあとに『ブラック・ジャック』が描きたいと。どちらかというと、谷川は『三つ目がとおる』の方に思い入れがあった気がします。


谷川 :

お声掛けをいただいてから、改めて『三つ目がとおる』を読み返しまして。「暗黒街のプリンス」というエピソードがあるんですけど、写楽くんが「バンノーのオレにもつくれないもんがあるんだ。かあちゃんだ。オレはかあちゃんがほしいんだ、どんなもんか知りたいんだ」って、叫ぶシーンがあって。そんな彼をみるときの和登さんのまなざしがすごく優しんです。「オレは母ちゃんみたいな女の子を見つけたんだ。和登っていう女の子なんだけど、でも、かあちゃんじゃないんだ」というようなことを訴えるんだけど、和登サンが「おかあさんみたいなものよ」って言うんですよ。なんというシーンだ! とグッときて。


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『三つ目がとおる』より、「暗黒街のプリンス」


谷川 :

子どもの頃は分かっていなかったんですけど、和登サンは“おかあさん”なんですよね。手塚先生も和登サンに関しては、母性を描きたかったと思うんですよ。和登サンに限らず、手塚作品にはそういう懐深い、愛情深い“かあちゃん”がたくさん登場しますよね。
 和登サンは惜しみない愛情を写楽くんに与えて、写楽くんもこんなにあたたかい場所はないとお互いが信頼しきっている。そんなふたりを描いてみたかったんです。


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母性がにじみ出ている和登さんと、天真爛漫な写楽くんの原画。


―――作業状況的にはどのように進んでいったのでしょうか。


谷川 :

実際、私は準備は主線まで描いたものを青木に渡すくらいで、彼がパソコンに取り込んでくれて、レイアウトをして指示通りに色も付けてくれて、グッズも全部発注してくれたので、青木が私の分まで大変でした。
 私がパソコンが苦手で全然わからないんですよ。グッズは全部データ入稿じゃないですか。もう手も足もでなくて。全方位青木に頼りきりでした。


青木 :

和登サンと写楽くんのポストカードのみアナログの手塗りにしたんですよね。
 僕の方はイベントごとに慣れているし、余裕があったので。
 途中、実行委員長の手塚るみ子さんから、「進捗は大丈夫ですか?」と心配のメールがきたので、泥舟に乗ったつもりで安心してくれって返信しました。


谷川 :

泥舟じゃ、沈んでしまう(笑)。
 本当は全アイテム色まで手掛けたかったんですが、私が塗ると時間が掛かるので締切に間に合わなくなってしまう。結局、納品が開催当日ギリギリになってしまって、本当に申し訳なかったです。


―――ご夫婦共同作業だったんですね!


谷川 :

おいしいとこ取りみたいな感じで参加させていただいていて(汗)。
 『ブラック・ジャック』については、グッズにするには紙の印刷物しか間に合わないタイミングだったので、シールとポストカードで出そうとまず決めて。メインで描いた2枚、横顔と、キメ顔のどちらをポストカードにしようと迷ったんですけど、サイン会で私の描く横顔が好きだという方が多かったのを思い出し、谷川史子が手塚先生の『ブラック・ジャック』を描きました! という感じが出るかしら、と横顔を選びました。


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横顔のBJは谷川先生の代名詞?! 右上の角度のついた原画はシールとなって登場。


青木 :

この作品はすごく谷川史子っぽいんですよ。コミックスの表紙なんかも横顔が結構多いもんね。


谷川 :

あと、リボンは青だろうか赤だろうかという問題も浮上して(笑)。赤も青も両方あるんですよね。本をもう一度読んだりして、調べました。和登サンの制服のリボンが赤なので、こちらは青にして完成させました。


―――青木先生も、今回『ブラック・ジャック』をモチーフにされていますね。


青木 :

『ブラック・ジャック』は医者としては、モグリじゃないですか。なにかイリーガルなものを描こう、とアイディアを練ったところ、なんとなく暴走族が出て来て(笑)。普段の『ブラック・ジャック』とは違う、格好良さを崩した路線のものを、と思って描いています。


虫ん坊 2017年12月号 特集2:手塚治虫文化祭 キチムシ’17 アフターレポート


谷川 :

このイラストをみて、「BLACK JAAKU」って、なんて読むのって聞いたんです。得意げな笑みを浮かべて、「ブラック・ジャアク」だって言っていて(笑)。


青木 :

『黒』に『邪悪』で「ブラック・ジャアク」ですよ。でも、医者なんです。「OPE OR DIE」って書いてありますから。
 僕はイロモノ枠なんですよ。さっきの谷川みたいなイイ話は何もないんです。くだらないことばかりやっているんで(笑)。
 『火の鳥』もずっとやりたいなと思っていて、格好良い火の鳥はみんな描くから、ひよこにして「ぴのとり」にしちゃうとか可愛らしい方向に行こうと。僕の場合は、そういうひねくれた路線なので。


谷川 :

そのユーモアセンスは武器ですよ。


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早い段階で完売してしまった「ぴのとり手ぬぐい」。青木タッチにデフォルメされたセンスあふれる一品。


青木 :

それが仕事になればいいんですけれどね(笑)。アトム子ちゃんに関しては、吉祥寺の街にアトム子ちゃんがいたら、というテーマでずっとやらせてもらっています。


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青木 :

「あれはなんでウランちゃんじゃないんですか」ってよく言われるんですけど、アトムじゃなきゃだめだという理由があって。
 僕はアニメで『鉄腕アトム』を知ったのですが、アニメのアトムは、赤いブーツを履いているような足じゃないですか。でも、初期のマンガのアトムって、バレエシューズみたいにフラットで足の底のところだけ赤くなっているんですよ。読んだ当初はそれがすごくショックで。長靴だったらその中に火の出る仕組みが入っているんじゃないかとか、想像できるけど、底の部分だけだと、その仕組みは入らないだろうとか、いろいろなことを考えちゃって、原作なのに偽物をつかまされたような感覚を味わいました。


虫ん坊 2017年12月号 特集2:手塚治虫文化祭 キチムシ’17 アフターレポート

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青木 :

その後、手塚先生が亡くなる何年か前だと思うんですけど、たまたま手塚先生がテレビでアトムの足について語っている番組を観たんですね。そこで先生は、ブーツの方じゃない、シュッとした足の方が色っぽくて好きだったということをおっしゃっていて。男の人が部屋でひとりでマンガを描いていると悶々とするんです、と。大人になった僕は、あ、手塚先生、そういうことなのか……、と思ったんですよ。
 アトム子ちゃんは僕のそんな混濁した思いをついにひとつにした作品なんです。アトムじゃなくてはいけないし、女の子っぽい足じゃなきゃいけない。
 僕はキチムシと同じギャラリーで「青木女学院」という個展を開催しているんですけど、僕のなかでアトム子ちゃんは、「青木女学院」と手塚キャラのコラボ、という企画でもあるんです。アトムは男の子のロボットとして生まれてきたけど、そこに女の子の部分も入っている。だから、もともと女の子のウランちゃんじゃダメなんです。


谷川 :

セーラー服を着ている女子高生っていうね。


青木 :

僕は“女子高生”じゃなくて、“女子高”なんです。校舎なんですよ。校長先生みたいな人格のある者ではなくて、あくまで校舎なんです。そのなかに、いろんなタイプの女子高生が住んでいるんです。


谷川 :

それを取り出して描いているみたいな。外に出してのびのびと遊ばせてあげているような感覚なんでしょうね。


青木 :

女子高生になりたいとかじゃないですからね。


谷川 :

気持ちよく描けて楽しめる絵って最強ですよ。


―――おふたりが描かれる画風は、キャラクターの可愛らしい雰囲気など、どこか似ていると感じるのですが、お互いの作品についてはどう思われているのでしょうか。


青木 :

うーん。画風の雰囲気が似ているかどうかというのは特に意識したことはないんですけど、谷川の描く作品はキャラクターの芯の部分とストーリーの軸が毎回しっかりしていて、すごくマンガの上手い人だと僕は思っています。いまどき珍しい、短編をほぼ連綿と描き続けている人じゃないですか。
 短編作品は、「つづく」ってことが出来ない分、すごく大変だし、短編の上手い人って本当に上手い人だと思うんです。
 お互いに影響を受けたっていうのは、多分……あまり無いよね?


谷川 :

私に関してはちょっと話が違うのかもしれない。


青木 :

あら。


谷川 :

私はもともと青木のファンだったんです。デビューはしたんですけど、ネームが全然通らなくてまだマンガだけでは食べられなかった時期に、先輩の作家さんに紹介してもらった、当時の少女向け雑誌『マイバースデイ』や増刊で姉妹雑誌の『プチバースデイ』のカット絵の仕事をがむしゃらにこなしていました。
 『プチバースデイ』のなかの後ろの方に、ちっちゃい「こまったちゃん」というゆるい感じの四コマがあって、とにかく絵が可愛かったんです。作者名を見たら、“青木俊直”とあって、「男の人が描いてるんだ!」と驚きました。


青木 :

谷川が今年画業30周年を記念して、個展を開催することになったときに、その頃の原稿をガサッと預かったんです。膨大な量もそうなんですが、描線のひとつひとつがとても丁寧に描いてあって、胸が熱くなるものがありました。展示こそしなかったけど、ああいう作品は貴重ですよね。たとえば、特集ページの枠の絵だけとか、竹久夢二みたいなことをやっているんだよね。


谷川 :

新人でしたから。あれで鍛えられたところはあるのかも知れません。
 私、心情を絵に表わそうとして結構しつこく表情の線にこだわるんですけど、この気質は手塚先生から来ていると今回読み返して思ったんです。
 手塚先生の線の美しさ、シュッとしている魅惑的な感じであったり、表情の微妙な、眉毛ひとつとっても、ちょっとした線の違いで表情が出ていて、こんなに微妙なニュアンスが描るんだということを、知らず知らず学んでいたんでしょうね。


キチムシ’17を終えて


谷川 :

デビューから30年の今年、キチムシに初参加させていただいて、リア充をまぶしく眺めるひきこもりなりに、やったもん勝ち、楽しんだもん勝ちだ、というスタンスで向きあえたことが本当に嬉しくて。
 抗わない方が良いこともあるというか、流れに乗るのも自然なんだなと大人になって気付きました。
 実は11月中、少しチャージさせてください、と〆切のあるマンガはお休みを頂いていたんです。ですから、このタイミングならキチムシに参加させてもらえるかも! って。本当にラッキーでした。


青木 :

手塚成分がチャージされましたね!


谷川 :

確かにそうですね。手塚先生は描きたいものが次から次に出てきて追いつかないと仰っていたのを読んだことがあるんですけど、アイデアを受け止める感性というか、なにか色々なものに対して感性が鈍ってきているのを感じていて、若いときの打てば響くような感性ってどうしてもなくなったりとか、刺激を刺激として受け取れなくなることってあると思うんですが、先生はそうじゃなかったんですね。
 あとは、今回、手塚作品を読み返す機会があって本当に良かったなと。プロになる前は面白く読んでいたものが、なんでこんなページ数でこんな作品がまとめられるの!? とか、新しい発見がありました。
 私のマンガってつい饒舌になりがちなんですけど、省略してわかるんだったら読者を信じてそれを差し出すべきだ、というお手本だなと気付かされました。


青木 :

……良い話じゃないか! 今日、「自分はしゃべれないから頼む」なんて言ってたんですよ。逆に僕の方がほとんどしゃべっていない(笑)。


●Special 2 キチムシ’17 特別寄稿コメント


今回、新しくご参加された先生方から、
1.今回のモチーフを選んだ理由とトリビュート作品のコンセプト
2.一番こだわった点
についてのコメントをいただきました!!


 成田童夢 氏

 twitter:@narita_dome


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一本木蛮氏(左)と成田童夢氏


1.こちらの作品のタイトルは「飛翔」というんですが、火の鳥をメインに、手塚先生のキャラクターの中でも空を飛びそうなキャラクターを選んで、一本木蛮先生に描いていただきました。ピノコは実際に飛べるわけじゃないけど、いろんな意味でぶっ飛んでいるな、と勝手に解釈して(笑)。

2.参加者の皆さんのサインが入ったこちらのイラストをそのまま用いて、限定1本のスノーボードの板を作ります。完成された板状にサインをすることがほとんどで、板の中に書かれたものを入れ込むことってまずないんですよね。今回、初の試みとなります。工場からは、1点ものをプレスするのでかなり危なっかしい作業ですけど大丈夫ですか? と言われていますが(笑)。
 あと、一本木先生には、雪上では派手じゃないと映えないので、ここに在り!という、存在感のあるデザンでお願いしました。宇宙っぽくもあり、“無限”を感じさせる色味で仕上げていただいて、さすがとしか言いようがなかったです。
 是非、同じ柄のタオルとセットで、ボードに乗って飛んでいただきたいですね。


 池内啓人 氏

 twitter:@ik_products


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1.今回アトムをモチーフに選んだのは、もともとロボットが好きだというのと、昔の人が想像していた未来と現代、実際の未来との差が昔から面白いと感じていていて、『鉄腕アトム』で描かれていた未来をいま現代の日常のアイテムに落とし込んで作ったらどうなるんだろうと、ヘッドフォンをアトムの頭に見立てて作成しました。
 60・70年代にB-BOYがはじめたサンプリングじゃないですけど、実際に使われている日用品を他のものに見立てて作品を構築するのが楽しくて。
 火の鳥については、羽が付いた模型を目にしたときに、火の鳥に見立てて羽の生えたイヤフォンにしてみたら面白いんじゃないかと。
 1986年に発売された「ワルキューレの冒険」というファミコン用ゲームソフトのワルキューレのキャラクターのように頭から羽を生やしているようにしたかったんです。

2.シルエットですね。『鉄腕アトム』はやはりマンガなので、向く方向によって頭のとがった部分が変わりますよね。そこを再現したくて、右を向いても左を向いても同じ位置に見えるように頭のとがった部分を外して移動出来るようにしました。羽の部分も手動で動かせるので頭の形だとかいい位置に合わせて装着できます。
 昔の人が想像した未来と実際の現代との差異を表現するにあたって、両方とも実際に使えないとただのファンタジーで終わってしまうので、実際に音楽を聴くことができたり、普段使いできるように工夫しました。


 山本まもる 氏

 twitter:@mamoru_yamamoto


虫ん坊 2017年12月号 特集2:手塚治虫文化祭 キチムシ’17 アフターレポート


1.手塚アニメと共に育ちましたので自然と自分の作家性の中に溶け込んでいます。
 その中でも一番近いピノコ、メルモ、ウランを選ばせていただきました。
 一目見て、可愛い! お茶目! と思わせる、そんな絵を心がけました。

2.自分が欲しい、と思うグッズを作りました。もともと可愛いものが好き(とは言ってもファンシー系ではなく、北欧や東欧系)なので、Tシャツにしても一枚絵にしても、オシャレ感が出る、インテリアとして溶け込める、しかもあまり手塚キャラからかけ離れない、そんなグッズが出来ればいいな、という思いで作りました。
 その辺のバランスが取れているかは、見てくださる側が判断してくださり、どんどん、ここはもう少しこうした方がいい、などいろんなご意見をいただけたらいいな、と思います。
 カレンダーに関しては、お茶目な手塚キャラが2年間登場したら絶対ボクなら欲しい! と思い作りました。
 さすがに24枚は時間がかかりましたが、満足しています。


 松田洋子 氏

 twitter:@matuda


虫ん坊 2017年12月号 特集2:手塚治虫文化祭 キチムシ’17 アフターレポート


1.絵の美しさ可愛さは他の方がすごいので、ネタになる表情を描こうと思いました。
 最もメジャーなキャラクターのアトムとピノコがストレートに感情丸出しで泣いてて、その理由を知りたがってもらって更になるほどと思ってもらうとこまでがネタです。

2.よそでは売ってない珍しいものというのも大事だけど、実用的で長く使ってもらえるものにしたいと思いました。
 そのため経年変化が楽しめる革小物をあれこれ作ったり、バッジも劣化しにくいレジンを探したりしました。


 諸星大二郎 氏


虫ん坊 2017年12月号 特集2:手塚治虫文化祭 キチムシ’17 アフターレポート


1..今回のモチーフは、子供のころ大好きだった「鉄腕アトム」からとりました。
 「海蛇島の巻」は特に好きだった作品です。
 また、アトムに出てくるさまざまなロボットも好きだったので、絵にしてみました。
 描いてあるのはグロテスク1号、「ミドロが沼」のロボット、フランケンシュタイン、ロボット爆弾、アトラス、そしてアトムです。

2.やっぱりクビクビ島の少女の方に力点が行ってしまいましたかねえ?


 大森暁生 氏

  twitter:@akio_ohmori


虫ん坊 2017年12月号 特集2:手塚治虫文化祭 キチムシ’17 アフターレポート


1.まずは昨年末に新潮に掲載された「手塚治虫のエロティカ」記事が、とても衝撃的で新鮮だったこと。そして、立体造形に携わる者のひとりとして、なんとしても立体化の一番手になりたかったことです。
 アトムもきっと当時悩みながら初めて立体化をした造形師さんがいたはずで、その一体目の解釈が今日まで脈々と無数のアトムフィギュアやオモチャの基本形となってきたのだろうと推測します。
 平面である漫画から立体に起こすその最初の一体目というのは、その作品の魅力をどう解釈してゆくのか、そこから始めることが出来る喜びと難しさがあると思っています。
 今回の「手塚治虫のエロティカ vol.1」が果たして立体化の基本形になりえたのかどうか?
 これは手塚るみ子さんはじめ多くの手塚ファンの厳しい目でご判断いただくことになりますが、試験を受けているようなそのドキドキも今回の大きな醍醐味だったと思っております。

2.「手塚治虫のエロティカ」については立体化はおろかグッズもなにも存在しませんので、自分の作風に置き換える等の2次的な作業は一切せずに、あくまで忠実な立体化に努めました。
 きっと手塚先生のイメージではモチーフはハツカネズミだろう、と仮定して、サイズも実際のハツカネズミの等身大としました。
 原画は、ネズミと女体の融合という本来無理があるはずの姿が、手塚先生の手によりごくごく当たり前のように自然に描かれています。
 立体化するにあたっても、骨格等の基本がきちんと理に適っていることを大事にしました。そうすることで、つぎの瞬間いまにも動き出しそうなリアルさが生まれると思っています。とくに描かれていない向こう側の腕(右腕)の肘の構造や位置がとても難しく苦労しました。
 それと、可愛さと色気の入り交じった目元もとても苦労した部分です。

 制作方法としては、木(檜)で原型を彫り、それをワックスに置き換えたのち、ブロンズで鋳造しました。
 色は一般的なブロンズの色味(茶色とか緑青色)では汚い印象になってしまうように思い、ホワイトブロンズという素材を自身はじめて使用してみました。
 手の上で愛でるのにちょうど良い重さであることも大切にしました。


 KAIJIN 氏

 twitter:@kaijintoy


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1.今回お話をいただいて最初は一番思い入れの強い手塚先生の作品をモチーフにしようと考えていたのですが、“フィギュア“で参加する事を考え
 「自分の作風と相性」、「アレンジした時の差異を楽しめる」、
 「手にとってもらった時の強度を確保出来る」
 この3つを基準にキャラを絞り、最終的にアトムに決定しました。
 アトムのシンプルかつ特徴的で可愛いシルエットは普段自分がするデザインに近いものがあり、ラフから最終案までかなり短期間で出来たと思います。

 ここからは少し余談ですが、最初でお話した思い入れの強い作品は火の鳥の鳳凰編です。
 当初は火の鳥を自分のラインで造形するか、擬人化(生命編の鳥とは別)しようと考えていたんですよ。
 ですが実際制作にとりかかり考えはじめると、どうしても納得のいく完成図が頭に浮かんでこない。
 キャラだけではなく全体のテーマに対する自分の感情を上手く作品に落とし込む事が難しかったんですよね。
 自分でもここまで悩んだ事に驚きつつ、手塚先生の作品の深さを改めて実感しました。


2.一番分かり易いこだわりというかアレンジは前髪ですね。
 昔からアトムの髪?は固いのか?柔らかいのか?
 ずっと疑問でした(笑)
 内面図でも頭のトゲ部分まで描かれてる事はないので先の部分は柔らかいのか?
 でもハイライトの入り方みると固そうだよね?と。
 今回は自分の願望としての「アトムの髪は柔らかい」を分かり易くする方法として追加しました。
 元のデザインに近いものや髪型が違うものもラフの段階では描いています。
 あと各部のバランスや艶の有無でしょうか。
 お腹とパンツの境目の比率は最後まで調整しましたね。
 低過ぎるとプロレスラーみたいになるし、高過ぎると子供が「お腹冷えるよ!」って言われてズボン上げられたみたいになっちゃうので。
 艶の有無はアトムのロボットとしての側面を残したくてブーツやパンツ部分はグロス、肌や髪としてアレンジした頭部はフラットな塗装で仕上げています。


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