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虫ん坊 2013年10月号 オススメデゴンス!:『ルードウィヒ・B』

 そろそろ『ブッダ』の再びの映像化に向けて、いろいろな情報が出てきましたが、『ブッダ』と同じ潮出版で発行された、もう一つの偉人伝大作といえばやっぱりこれ!

 ベートーベンという実在の人物を主人公にしながらも、虚実入り混ぜて描かれていて、読めばベートーベンが好きになる……カモ!?

 すっかり秋らしくなったこの季節、芸術の秋、ということで、ベートーベンっていえば音楽室の肖像画が学校の七不思議になるとか、なんだか気難しそうくらいのイメージしかないよ、という方ほど、おすすめしたい作品です。




解説:

 (手塚治虫 1988年1月号『コミックトム』掲載 「ベートーベンの部屋」 より)


 よく読者に「ルードウィヒ」ではなくて、「ルートヴィッヒ」なのではないかと聞かれます。ドイツ読みにすると「ルートヴィッヒ」なのですが、一般的な読みかたで「ルードウィヒ」にしたのです。

 ぼくは自分がベートーベンと性格が、ひどく似ているような気がします。気むずかし屋で世間知らずで、しょっちゅうカンシャクを起こしてわがままで……というところです。

 (中略)

 階段の降り口に、受付があったので聞いてみました。「そうね、日本人の客が多いね。日本人って、なぜベートーベンがそんなに好きなのかね」と、受付の男がふしぎそうにいいました。「それも、子どもみたいな若い娘ばっかりだ」

 ぼくは、この人に「日本では『合唱』を年末に全国何十か所でやるんだよ」と教えようとしてやめました。きっと、こういわれると思ったのです。「日本人は得体の知れない民族だ!」



読みどころ:


虫ん坊 2013年10月号 オススメデゴンス!:『ルードウィヒ・B』

 『ルードウィヒ・B』は、楽聖といわれた音楽家、ベートーベンの生涯を扱った作品です。

 ……などと言うと、子供用の偉人伝のような、せいぜい教訓的なエピソードをつまらなく織り交ぜた、ストーリーの面白みも、ギャグ要素もない退屈な作品なんじゃないか……などという先入観を持たれる方、手塚作品に限ってそんなことは絶対にない! と保障いたします。


虫ん坊 2013年10月号 オススメデゴンス!:『ルードウィヒ・B』

 すでに『ブッダ』や『陽だまりの樹』などをお読みの方ならきっとご存知のように、この『ルードウィヒ・B』はまさに手塚版伝記マンガ、いや「伝記マンガ」などと軽々しく言い表してしまうのがもったいないくらい、フィクション作品顔負けのエキサイティングな作品なのです。




虫ん坊 2013年10月号 オススメデゴンス!:『ルードウィヒ・B』

 最晩年に描かれたこの作品は、残念ながら手塚治虫の死去によって打ち切られてしまいます。ところがそんな死の影なんかかけらも感じさせない勢いがこの作品にはあるのです。





虫ん坊 2013年10月号 オススメデゴンス!:『ルードウィヒ・B』

 まず、そのストーリーの巧みなこと。冷血でちょっと狂気をはらんだ美青年の貴族フランツと、音楽の天才にして少し変人のルードウィヒという、個性的な二人を物語の中心に据え、価値観も立場もまったく違う、いわば敵味方同士のこの二人の視点を交錯させ、物語に厚みを持たせる上に、舞台はフランス革命下の激動のヨーロッパ。これだけでも面白くならないわけがない上に、見せ場もふんだんに用意されていて、スペクタクル史劇ばりのフランス軍とオーストリア軍の衝突、ルードウィヒの神業的なピアノの演奏、そして主人公二人の緊張みなぎる対決シーン……。ギャグもふんだんに盛り込まれている上、レッド公やヘック・ベン、スカンクといった往年の大スターが端々に顔を出すファンサービスも用意され、まさに盛りだくさん。本当に打ち切りになってしまったことが悔やまれます。


 



虫ん坊 2013年10月号 オススメデゴンス!:『ルードウィヒ・B』

 ベートーベンと自分は性格が似ている気がする、と言う手塚治虫、きっと並々ならぬ愛情を持ってこの作品を描いていたに違いありません。もしこれが完結していたら、あの『ブッダ』にも負けぬ傑作となっていたことでしょう。








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