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虫ん坊 2012年03月号 特集1:「グスコーブドリの伝記」音楽 小松亮太さんインタビュー

小松亮太さん

「グスコーブドリの伝記」で音楽を手がける、小松亮太さん。

 7月7日の公開に向けて、着々と制作が進んでいる映画「グスコーブドリの伝記」ですが、1月30日に行われた、ニコニコ生放送「”Promotion but Education Vol.3 サントラ収録生放送”」はご覧になったでしょうか?
 音楽を担当されるのは、アルゼンチン・タンゴをホームグラウンドに、バンドネオン奏者として、また作曲家、アレンジャーとして活躍する小松亮太さん。『風の詩〜THE世界遺産』『情熱大陸』などのテレビ番組の主題曲から、アニメーションでは『モノノ怪』のオープニングテーマ『下弦の月』など、独特な世界観を持つその音楽は、みなさんもどこかできっと、耳にしたことがあるはずです。
 虫ん坊では、小松さんにインタビューし、「ブドリ」の音楽を手がけてみた手ごたえや、どんな響きを目指されているのか、伺ってみました。

 関連情報

小松亮太さん オフィシャルサイト
「グスコーブドリの伝記」オフィシャルサイト



◎ 思った以上に大変だった、映画音楽


グスコーブドリの伝記

「グスコーブドリの伝記」より

――映画音楽を手がけられるのは、初めてということですが。

小松:  いままで映像系では、テレビ番組のテーマ曲などの作曲や演奏は、ずいぶんいろいろやらせていただいたのですが、映画音楽となると生まれて初めてです。約2時間の映像作品の中で、主題歌以外、鳴っている音楽が、全部僕の書いた音である、というのは初めての経験ですね。
 その大変さはもちろん、覚悟していました。僕も一人のプレイヤーとして、他の作曲家が書いた曲を弾かせてもらうということは何度もありましたので、作曲家の方々の大変そうな姿は見て来ましたからね。一つの映画の中の音楽を一人の人間が書くというのがいかに大変なのか、はよく分かっていました。
 作曲自体は、40曲あまりを少しずつ時間をかけて書きためていったのですが、それらを最後に仕上げるときに、こんなに大変だったのか、というふうに思いました。
 初めの頃は、割と平気だったんですよ。仕上げのときにこんなに苦しいのか、って…。まず、端的に行って曲の数が多いんです。楽譜のチェックをするだけでも大変ですよね。作曲家の方というのは、やはり偉いな、と思いましたね。


小松亮太さん

インタビュー当日、編集の様子。各楽器の音をいろいろに調整して、録音した音をよりブラッシュアップします。

――それは、1本の映画の曲として、統一感を持たせる、というところでしょうか。

小松: 今回の「グスコーブドリの伝記」では、杉井ギサブロー監督のご意向に沿うという部分がありますが、それは他のコラボの場合でも同じで、たとえばバレエ団や歌手、あるいはミュージカルと一緒にやることになりました、という場合、演奏や曲さえ良ければいい、というわけにはいかないですよね。他のジャンルの芸術とコラボしていく際に出てくる制約や、さまざまなファクターにあわせていくことについては苦しみもありますが、僕自身はとても面白いとも思っています。
 僕はバンドネオン奏者でもありますが、普段楽器の演奏家として食べている人の中には、自分の音楽が思い通りに弾けない制約が生まれると、それを苦しいと感じる方も少なからずいらっしゃいます。僕の場合では、テーマと時間をきっちり制限されることがむしろとても楽しかったんですよ。
 曲を提出すると、監督のほうから「ここはもうちょっとセリフを邪魔しないようにしてください」といったような具体的なオーダーが来るんですね。それに対して答えていくのが、時に大変でもあるのですが、結局はとても面白くて。最後の大詰めの仕上げのときには約10日以上ほとんど寝なかったのですが、体が平気になってきちゃって。テンションがあがってしまってね。そろそろその疲れが出てくるころかも知れません。


◎「グスコーブドリの伝記」、田代敦巳氏との出会い

「グスコーブドリの伝記」

ニコニコ生放送でレポートもされた、レコーディング当日の杉井ギサブロー監督の手元には、こんな資料が。

――そもそも、「グスコーブドリの伝記」の音楽を手がけられることになったきっかけは?

小松:  僕の記憶では確か2009年の夏だったと思うのですが、グループ・タック代表の田代敦巳さんから、ソニーミュージックを通してお話をいただいたのが始まりでした。田代さんはアニメ界では知らない人のいない音響監督で、『宇宙戦艦ヤマト』をはじめ、さまざまな名作を手がけられてきた方です。僕の青春時代はまさに80年代で、田代さんのプロデュースによる音楽をさまざまな作品で聞いていましたから、数々の印象的な作品の世界観を音楽によって造ってきた人なんだな、という認識はありました。そんな方が僕にどうして声をかけてくれたのか、と初めは思いましたが、田代さんは「バンドネオン奏者としての、また、タンゴのミュージシャンとしての小松さんじゃないと、出てこないものを、とても大切にしたいんだ」とおっしゃって。そのとき、僕は勝手ながら、自分が持っている良いところ――いわゆる映画音楽などを手がける職業作曲家の方々とは違って「アルゼンチン・タンゴ」というジャンルの壁を持っているところを、良いと言って下さったのではと考えたのです。「じゃあそのつもりで、思いきり僕の特徴を出させてもらっていいんだな」と思いました。
 このコーナーを御読みの読者の方でも、タンゴというのは「こんな音楽です」と答えられる方は、まだ少ないと思うんですよね。そういった特殊な音楽をやっていて、バンドネオン、という超特殊楽器を弾いているというところを、むしろ田代さんは気に入って下さったんじゃないか、と。
 最初に、5、6曲ほどを提出したんですよ。そこで田代さんの携帯に電話をかけて、「いかがだったでしょうか?」と聞いたら、「これでよかったんですよ小松さん!」と言って頂けて。さらに曲をいくつか書き進めて提出して、もう一度電話をかけてみたんですが、何度かけてもつながらない。どうして連絡が取れないんだろう? といぶかしみながら1週間ほど経った後、急逝されたという連絡が入りました。僕が拝見したところでは、ご病気をお持ちにも見えなかったものですから、非常にびっくりしましてね。
 その後しばらく、「グスコーブドリ」のお話は止まってしまって、10ヶ月以上の間が開いた後で、手塚プロダクションのほうで引き継いでやることになったと伺いました。
 そこで引き続きお願いしますというお話をいただいて、今度は杉井監督と直接やりとりをするということになったのですが、これはこれで緊張しまして。
 田代さんは、僕がどんな音楽をやっているかを理解した上で選んでくださったのですが、杉井監督は違います。僕に監督のご要望に沿える作曲の技術があるのかどうか、というのが心配ではありました。


小松亮太さん

レコーディングの様子。

 例えば、「1分7秒で火山を表現した音楽を作ってください」とか、「45秒で迫り来る飢饉を」といったご要望が出てくるわけですが、それに応えられるのかどうか。不幸中の幸いには、とにかく時間はたっぷりいただけたので、熟考に熟考を重ねて提出することが出来ました。
 「これはもう少しこうしてください」というようなオーダーには都度答えていくのですが、そのうちにほとんどの曲に「いいね」と言っていただくことが出来て、安心して進めていけましたね。
 僕にとっては、曲を書いて実験をしながら、批評していただいて、その批評に対してまた応えて、というふうに、半年から一年のスパンで成長したように思います。映画の音楽というのはこのようにやるべきだということが実際に携わるうちにだんだん分かってきた、というのが正直なところです。
 だから、熟練した作曲家が、「ぼくは、今回はこういうテーマで書いたんだよ」というようにはかっこいいものじゃなくて、杉井監督の優しさに引っ張られて出来ていった感じですね。もし監督がシビアな方だったらどうなっていたかな、と思います。
 むしろ僕が曲を書いては、監督に「どうだったでしょうか?」とせっつくような進め方で、監督は「いや、そんなに急がなくても大丈夫ですよ」といつもおっしゃっていました。監督には「もっと落ち着け」とおっしゃっていただいたように僕は思っています。だから、ナーバスにならずに、じっくり考えることが出来たんです。

――納得のいく音になっている、と感じていますか?

小松: 絵とあわせたところをまだ拝見していないので偉そうなことはいえないのですが、僕が自分で書いた音楽の音に関しては、自分が想像していたとおりの音になったな、という気持ちはあります。
 1月30日から2日間行われたレコーディングには杉井監督も立ち会われ、そのとき僕は密かに監督のお顔を眺めていたのですが、最初のうちはわりと冷静な雰囲気だったのですが、二日目の後半頃になったら、とてもうれしそうに、「これは良い」と言ってくださいました。そこでもう、へたり込むぐらいに安堵しましたね。


◎「グスコーブドリの伝記」の音楽とは?

「グスコーブドリの伝記」

「グスコーブドリの伝記」より。子取りは恐ろしい人物ですが、デザインはあくまで猫なのでやっぱりちょっとかわいい…

――「グスコーブドリの伝記」の音楽で目指したのは、どういう方向ですか?

小松: 監督には、初めに「柱になる曲を決めていきましょう」という指示をいただきました。
 たとえば、「火山」はだいたいこんなメロディ、とか、「ブドリ」はこんなメロディ、「工場長」はこんなメロディ、といったようにですね。
 僕がメインテーマのつもりで作曲した曲は、監督から「とてもよい曲だけれども、メインテーマではなくてブドリの個人的なテーマにしましょう」などのやりとりをしていって、各キャラクターやシーンのテーマ曲をそれぞれ、作りました。
 その中でも僕は、「子取り」と「工場長」のテーマが印象に残っています。監督からのオーダーは、「彼らは曲者だから、それを感じさせる音楽にしてほしい」というものでした。
 「曲者」というからにはクセの強いメロディをつくらなくてはいけない、しかも、そのメロディを演奏する楽器は癖の強い音色の楽器であるべきだろう、と思いまして、アレンジをいろいろ書いたんですけれども、実はここが一番、悩まされたところでもありました。楽器も試行錯誤して、バンドネオンがメロディを弾いていたのをやめ、リコーダーにしてみたり。
 「子取り」っていわば、人買いですよね。だから、恐ろしいし、不気味だし、ヤクザ者でもある。でも、アニメの中では猫のキャラクターですので、ある程度のかわいさも必要なのかな、とも考えました。可愛らしさと不気味さ、あるいは怪しさが同時に鳴る感じで作ったメロディで、当然楽器の選び方もかなり気をつけました。

 今回は、普通にギターやバイオリンといったような、良くあるメジャーな楽器よりも、癖の強い、普通の場面ではあんまり使わない楽器をあえて使っているところがあります。
 僕の弾くバンドネオンも、ドイツ生まれのアルゼンチン育ちというかなり特殊な楽器ですが、先ほど言ったリコーダーや、ハーモニカ、ブラジルの弦楽器のバンドリンなど、特殊な楽器をいろいろ使っています。通常オーケストラなどを聴きに行くときにはお目にかかれない、一癖ある楽器たちを、あえて際立たせました。

――相当独自性のある音楽になっているのでしょうか。

小松: 音楽的にはそれほど奇を衒ったものではなく、まともだと思います。僕が作曲したり、アレンジしたりするときにいつも気をつけることは、常識をきちんと守った上でユニークでなくてはいけない、ということです。「こんな変な音楽だぞ! どうだ、すごいだろう」ということはやりたくないし、「常識的です。…だから何?」というのも嫌なんですよね。誰が聞いてもまともな音楽だけど、その中にどこか異様なものが混じっている、あるいは、異様に見える中にも、ちゃんと筋が通っているアカデミズムがある、という。そういうものは大事にしなくちゃいけない、と思っています。


◎アニメーション・漫画はお好きですか?

W3

小松さん思い出の1冊、「W3」より。日本の田舎に住む少年と国際スパイのその兄、動物3匹というのは仮の姿、実は宇宙人というW3の冒険を描く作品。

――今回はアニメーションの音楽を作るお仕事となりましたが、アニメーションはお好きなほうですか?

小松:  テレビで放送されていたものは一通り見ています。強く印象に残っているのは、夕方の再放送でしか見られなかったのですが、「サイボーグ009」がすごく好きでしたし、また、先ほどお話にも出た田代さんが音楽プロデュースを手がけられた「宇宙戦艦ヤマト」なら完結編が一番好きですね。僕が小学校4、5年生の頃、映画館で上映されていたのですが、そのミッドナイト上映に一人で入って。もちろん、両親に連れて行ってもらったのですが、両親は興味がなかったらしく、隣で「南極物語」か何かを観ていました。
 両親は、僕の世代の両親としては若い方だと思いますが、さすがに松本零士世代ではないですね。どちらかというと、まさに手塚治虫さんを読んでいた世代です。

――小松さんのお好きな手塚治虫作品は?

小松:  手塚治虫さんの作品で印象に残っているのは、「W3」という作品です。
「鉄腕アトム」などに比べるとそれほど有名な作品じゃないのかも知れませんが、僕がこれも小学校3、4年ぐらいの時に、テレビで子供向けのアニメを見ていたら、うちの父親が、なんかすごくいらいらしていて。「こんな子どもっぽいもの見て」とか言うんですよ。子どもだから仕方ないじゃないか、と思うのですが(笑)。
「ちゃんとした、すごい漫画を買ってきてやる」みたいなことを言い出して、買ってきてくれたのが「W3」だったんですよ。
 手塚治虫という人は知っていましたが、「W3」というのはさすがに知らなくて、でも読み始めたら面白くてはまってしまった、ということがありましたね。

――それでは、手塚作品については、むしろご両親のほうがお好きだったのですか?

小松:  父親はまさに手塚世代なんじゃないかな、と思います。母親も「鉄腕アトム」のモノクロ版のアニメーションを熱心に見ていた、と言っていました。
 僕が見ていたアニメは「鉄腕アトム」はカラーの80年代リメイク版だったと思いますが、単行本で読んだ「W3」のインパクトのほうが個人的には強烈でしたね。

――もし、手塚作品の映像化で、音楽をご担当されるとしたら、どれをやりたいですか?

小松:  勝手なことは言えないのですが、あえて言わせていただくと、やはり「W3」がもしリメイクされるのであれば、やらせていただけるのであればそんなにうれしいことはないですね。
 ふしぎな偶然で、2009年に映画化された白土三平さんの「カムイ外伝」で、岩代太郎さんが音楽を担当されていたのですが、その中で、僕がバンドネオンを弾いているところがあるんですよ。白土三平さんの作品にも思い出があって、先ほどお話した、父親が「これが漫画だ!」といって買ってきてくれたマンガは実は2冊あって、「W3」と白土三平さんの「ワタリ」だったんです。
「ワタリ」も読んだらハマって、自分で単行本を買いにいったりしました。ある巻から先がぜんぜん手に入らなくてそれきりになっちゃいましたが、その白土三平作品の中でバンドネオンを弾いたことに縁を感じたりもしました。「W3」がもし、またアニメ化されることがありましたら、ぜひ関わりたいですね。


◎ ご覧になる方へ

小松亮太さん

――「グスコーブドリの伝記」の音楽を楽しみにしている方に、なにかメッセージがあれば。

小松:  僕は普段、アルゼンチン・タンゴをやっていますが、今回の音楽は映画音楽として書いた作品です。その中に30%だけ、僕が一番大事に思っているアルゼンチン・タンゴという音楽を忍び込ませてみました。ですから、これこそがもしかしたら、クラシックでも、ロックでも、ジャズでもなく、タンゴの音なのかな? という音を探しながら聞いていただけるとうれしいな、と思います。
 ホームグラウンドとしてのタンゴを意識的に出さなかったところもあるし、逆にわざと入れたところもあります。もう一つ、僕がストップしたつもりなのに、出てきているところもあると思います。ここはタンゴじゃなくてもいいんだ、と思っているところに「これは小松亮太じゃないとでてこないよね」というものが自然に含まれているとしたら、とてもうれしいですね。わざとらしく含まれているのは嫌ですが、自然にそれが出てきてしまっていて、映画を見たお客さんが、なんだかいい音楽を聴いた、いい映画を観た、と感じられて、その中の「よい何か」が実はタンゴでした、ということが5年後に分かっていただける、というようであればいいですね。


――お忙しい中、ありがとうございました!




 映画『グスコーブドリの伝記』は、7月7日公開予定です! 公開の一足先に、今回お話を伺った小松亮太さんによる音楽を聞き込めるサウンドトラックの発売も予定されています。お楽しみに!

(C)2012「グスコーブドリの伝記」製作委員会/ますむら・ひろし


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