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虫ん坊 2011年3月号 オススメデゴンス!:『38度線上の怪物』

 虫ん坊 3月号の「オススメデゴンス!」は、季節の変わり目、風邪に気をつけましょう! ということで、『38度線上の怪物』をご紹介します! 手塚先生の初期作品で、ヒゲオヤジとケン一くんがミクロのレベルまで小さくなって結核をわずらった少年の体に入り込むお話。
 昔から、不治の病として恐れられていた結核、いまは治療法がちゃんとありますので完治しますが、このお話を読むと、結核菌にもいろんなドラマがあるのかもしれないなあ……、と想像が膨らみます。
 また、この作品で注目なのは、当時の手塚治虫の交友関係がオモシロオカシク盛り込まれていること。詳しくは「解説」をご覧になれば分かります。
 これから春先、風邪やインフルエンザ、花粉症など、悩ましい病気が気になる季節。モードさんたちのような「恐ろしい病原菌」に体を乗っ取られないよう、家から帰ったらうがいと手洗いをどうぞお忘れなく!



解説:
(手塚治虫 講談社刊 手塚治虫漫画全集『38度線上の怪物』あとがき より抜粋)


「38度線上の怪物」は、したがって骨組みは「吸血魔団」ですが、全編これ楽屋おちばかりで、読者のためにかなり説明をする必要があります。まず、主人公の少年は、当時少年画報社の社員でぼくの担当だった M という人で、性格も顔もまったく M 氏なのです。ただ、ラーメン屋でねぎをわきへのけてラーメンをすするというのは、やはり同社の F という編集者のねぎぎらいのくせをくっつけたのです。少年を見舞いにくる三人は、もちろん馬場、福井、高野の三漫画家で、この三人やその他の人々が M のことで語りあうシーンは、当時、ヒットして話題になっていた黒沢明さんの「生きる」からのうけうりです。少年が肺病なのに泳ぐシーンの前で、バックの応援席からしきりに、「タンカ タンカ タンカ トイ トイ」と、こうるさいセリフがとんでいるのは、 M 氏が今井正さんの映画「ひめゆりの塔」が大好きで、その中の「あさどやユンタ」のメロディーを、しじゅう口ずさんでいたのをひやかしたのです。こんな身内の楽屋おち的ギャグなんか、当時どころか今だって、読者にとってはいい迷惑です。
(後略)



<Amazon: 38度線上の怪物 (手塚治虫漫画全集 (43))



読みどころ:

虫ん坊 2011年3月号 オススメデゴンス!:『38度線上の怪物』

 今回ご紹介する作品「38度線上の怪物」は、楽屋オチが過ぎる上に、手抜きの焼き直し、と作者の評価はかなり悪いのですが、原作となった「吸血魔団」が現在では手に入りにくいうえに、初期手塚作品らしいユニークな科学ものとして純粋に楽しみたい作品です。
 解説で手塚治虫自身が語っているようなリメイクの問題や、楽屋オチや数々のもじりより、この作品の発表後に世に出た映画「ミクロの決死圏」にアイディアを拝借されてしまった、ということのほうが、本作にとっての不幸といえるかもしれません。



 しかし、このお話の根幹となっているアイディア――小さくなって身近な世界を探検する、というシチュエーションが、どうして何度もフィクションの世界で繰り返し扱われ、子供の心を捉えるのでしょうか。物語の組み立て方も非常にしゃれていて、ある少年が 38 度の熱を出して倒れたのに、奇妙な夢を見た挙句にある朝ぽっかり目を覚ますと、すっかり熱が下がっていて、喜んで外に遊び出た少年に突如現れた 2 人組が声をかけ…という導入の仕方や、前半で少年の様子を描いたシーンと、その後につづくヒゲオヤジとケン一の体験したエピソードが見事に表と裏の関係になっているところなどは、短編作品としてきっちりと整えられている感があります。



 映画「ミクロの決死圏」のみならず、いまや様々なフィクション作品で取り扱われる「体が小さくなって、ミクロの世界を大冒険する」というアイディアですが、繰り返し扱われるということはそれほどに人気があり、魅力に富んでいる、ということの証明ともいえるでしょう。なぜか子供の心を捉えて離さない“ミクロの大冒険”アイディアの「源泉」ともいえる本作をぜひ読んでください。








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