アニメの世界では声優のプロダクションとして有名なマウスプロモーション。手塚作品でもブラック・ジャックの大塚明夫さん、アストロボーイ・鉄腕アトムでアトムを演じた津村まことさん(※津村さんは2007年までの所属、現在はフリーで活躍しています)など、様々なキャラクターの『声』でお世話になっています。
 アニメキャラクターを魅力的に描く際に、欠かせない『声』の演技。普段は声のみでお目にかかることの多いマウスプロモーションの声優さんたちですが、舞台俳優としても多彩な活躍をしています。
 今月の虫ん坊では、マウスプロモーションが年に一度開催する今年度の定期公演「銀と赤のきおく」のリハーサル現場にお邪魔し、脚色・演出を担当する池田政之先生にお話をうかがいました。

すでに大勢のキャストが地下一階のスタジオに集まり、自主練習をしたり、喋りあったりしています。和気藹々な中にも緊張感のあるスタジオ内。  池田先生がいらっしゃり、挨拶の後、さっそくダンスシーンのリハーサルが始まります。社交ダンスのような華やかなダンス。どんなシーンに織り込まれるのでしょうか…。
何度もくり返し踊り、細かいポーズやしぐさ、テンポ等を詰めていきます。手の角度や服の様子、並び方などを詳細にチェック。キャストの表情も真剣。
大勢でのダンスシーンのあとは、中村俊洋さん演じるレオナのソロでのダンスシーン。ダンスそのものの上に視線の演技などにも様々な指示が入ります。


2つのダンスシーンのリハーサルが終わると、いよいよ通し稽古が始まるということ。その前に池田先生に、今回の作品についてインタビューしました。

●池田政之先生にインタビュー! 「銀と赤のきおく」について

――マウスプロモーションの定期公演では、3作目から演出・脚本を担当されています。 これまでコメディ作品を続けていらっしゃいましたが、今回はシリアスタッチ。何か狙いがあったのでしょうか?

池田先生(以下敬称略):特に狙いがあるというわけではありません。普段からコメディや、シリアスや、時代劇などいろいろなものを描いていますので。火の鳥を選んだのはやはり、手塚先生の生誕80周年に負うところが大きいです 。

 テレビドラマや舞台など、120本i以上もの脚本を書かれてきた池田先生。この、「銀と赤のきおく」も脚本自体は3日で完成していたそうで、だいたいの作品は同じスピードで作られるそうです。
 もちろん、その後に原作のイメージを損なわないか、ファンのイメージを裏切らないか、事件のつじつまが合っているか、などの微調整は完成後もするそうですが、それにしても一編の物語を3日で作り上げてしまうというのは驚異的なスピードです。
――手塚作品や「火の鳥」についての思い入れは?

池田:僕の出身は西脇というところで、手塚先生の出身地の宝塚市と同じ兵庫県なんです。
手塚先生といえば「リボンの騎士」などから、宝塚歌劇のファンとしても知られていますが、僕も宝塚歌劇は好きで良く見に行っていました。 今回の舞台にも宝塚的な要素を入れてみています。先ほどのダンスシーンがまさにそうで、あのシーンには元宝塚歌劇団の葛城ゆいさんに振り付けをしてもらいました。
手塚作品はもちろん、昔から様々なものを読んできました。「火の鳥」は以前、日本舞踊協会の創作舞踊劇場で「火の鳥」を題材に脚本を書いた際、(「火の鳥 転生編 ――炎の向こうにあなたがいた――」2004年6月公演)一番好きな「復活編」が表現できず、 ずっと引っかかっていたので、いずれ「復活編」を舞台にしたい、とは思っていました。「復活編」はロボットの物語ですが、ロボットの動きは日本舞踊のやわらかい感じとは合わないでしょ? 今回の舞台では、「火の鳥 転生編」ではできなかったことをしたいと考えました。
 マウスプロモーションから定期公演の依頼を受けた際、手塚先生生誕80周年記念ということで候補作を何作かもらっていたのですが、その中に「火の鳥 復活編」はありませんでした。かわりに「ダリとの再会」が入っていて、こちらは未読だったのですが、読んでみると面白い。 それで2作をあわせたらいいんじゃないかと思いついたのです。

この脚本を構想している時、事故に遭い、しばらく入院していた池田先生。その病床で「復活編」と「ダリとの再会」をあわせよう、とひらめいたそうです 。
         
――「銀と赤のきおく」として、2作品をどのように料理したのでしょうか。

池田:まず、壮大な「火の鳥 復活編」の時間をお芝居向きに縮めなければいけなかった。本来原作では何百年もの時間をいったりきたりする「復活編」ですが、今回は70年という長さに設定しました。
  70年という時間は、人間にしてみれば十分長い時間です。70年後には僕は生きていないだろうし、小学生の子どもだって80歳の老人になる。70年前には考えられもしなかった携帯電話とか、パソコンなんかも今は使えるようになっている。今から70年後の世界では、もっと技術も進歩しているかも知れない。コンピューターを当たり前のように使える今の子どもが、もしちょっとしたいたずらを仕掛けたら…? それが数十年後にはものすごい結果を生むかもしれない。
この物語では、猿田という人物を主軸にして、少年時代の猿田が仕掛けたそんな「いたずら」が、ロボットの世界に大きな事件を起こす、という筋にしました。「復活編」に登場する「心を持つロボット」が、どんな偶然から生まれたのか、というところを掘り下げています。
 「ダリとの再会」のクライマックスである、介護ロボット「ダリ」の暴走という事件をキーに、ダリの遺伝子が連綿とチヒロに、ロビタにつながっていく、そんな物語になっています。

チヒロが、なぜレオナに恋をする心を持つにいたったのか――その部分は原作には描かれていません。池田先生は、この、手塚治虫が設定しなかった事件の「原因」について、この舞台で一つの答えを提示しています。その答えについては、ぜひ劇場で確かめてみたいところ。

――さて、マウスプロモーションとは第3回公演「桜の田」から脚本・演出としてかかわる池田先生ですが、劇団としてのマウスプロモーションの魅力とは?

池田:一言で言うと、「そろっている」ところです。年代も様々な人がいるし、いろいろなタイプの役者さんがいる。 「このタイプがいない!」というところがない。だから、時代劇でも、現代劇でも、いろいろなタイプの劇を上演することができます。また、チームワークも良くて、皆さんがマウスプロの思想を共有している。 ベテランの方は俳優としても活躍されている方も多く、もともとは俳優、という方がほとんどですが、最近は声優という職業も有名になって、声優さんを初めから目指して入ってきている若い方も多いんだけど、舞台をやる、というとこうして皆やりたい、と集まってきます。皆さん勉強熱心で、熱意があるところも、いいところだと思います。

インタビューの後は、第1幕からの通し稽古が始まりました。スケジュールの合わない方もおり、代役を交えてのリハーサルですが、スムーズに物語が進んでいきます。
「ダリとの再会」の名シーンももちろんあります。ロボット看護士・ダリに手を焼くウルフ。ダリの「小道具」はもちろん仮のもの。本番はもっとロボットらしい姿になる。 ウルフ役の増田隆之さんはスケジュールの関係で取材日はいらっしゃらず、代役にて稽古しています。
一幕には、大塚明夫さん演じる前回公演「櫻の花に騙されて」のキャラクター・石場がゲスト出演するシーンも。前回からのファンへのサービス。
レオナの心象によるニールセン博士(谷 育子さん)はどのように表現されるのか。ちなみに舞台ではニールセン博士は女性にアレンジされています。
森田順平さんによるロビタの演技も見どころ。ロビタ(写真右)と行夫役・楠見藍子さん(写真左)。抑揚を抑えたぎこちないロボットの演技から、ロビタというロボットの悲しさが伝わってきます

チヒロの持ち主の社長役・楠見尚己さん(写真右)、中央レオナ、社長秘書の定岡小百合さん(写真左)。楠見さんはアトムのTシャツをきています!
 実際、リハーサルを見学させていただくと、普段アニメ作品で親しんでいる声優さんのまた違った魅力を観ることができました。時間の関係で、第1幕のみの見学でしたが、すでに思わず物語に引き込まれる熱演。本番の舞台がとても楽しみです。
公演まで2週間と迫った取材日に、快く取材に答えていただいた池田先生、スタッフ・キャストの皆さん、ありがとうございました。

 舞台はいよいよ6月3日から開演。新宿紀伊国屋のサザンシアターでの上演となります。ぜひ、足を運んでみてはいかがでしょうか?
「銀と赤のきおく」詳細

原案:手塚治虫『ダリとの再会』『火の鳥 復活編』より
脚色・演出:池田政之
公演日:2008年6月3日(火)〜8日(日)
会場:新宿紀伊国屋サザンシアター

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