moderno絵本

スティーブ・ヒレッジとミケット・ジローディのコンビによる、UK大御所テクノユニット・SYSTEM7が、『火の鳥』にインスパイアされたニューアルバムを制作!しかもこのプロジェクトには、手塚るみ子さんが関わっているらしい…???

そんな気になる情報を入手した虫ん坊編集部は、さっそくるみ子さんにインタビューをお願いして、SYSTEM7との出会いから、今回のアルバムに関する情報など、お話をうかがってきました!

――SYSTEM7との最初の出会いはどのような経緯だったのでしょうか。
手塚:私がもともとテクノとかトランスという音楽が好きで、クラブとか、野外のフェスティバルなどに行くようになっていたんですが、最初に出会ったのは、たぶん1999年、彼らが来日して新宿でライブをやった時ですね。その時はSYSTEM7という存在をよく知らなくて、「こういう人たちがいるんだ、かっこいいな」くらいに思ってたんです。

――その後、SYSTEM7の存在を意識したきっかけは?
手塚:2001年に広島県で「世界聖なる音楽祭」という、宮島全体を使った音楽祭があったんですが、そこにSYSTEM7が出演していて、その時に聴いた彼らの音がものすごく素晴らしかったんです。特に宮島という場所は神秘的なイメージをもつ島でもあったので、周囲を海に囲まれたステージで、SYSTEM7が実にスピリチュアルな音楽を演奏して…そのシチュエーションに、一瞬にして古来の日本を舞台にした『火の鳥』の世界がフラッシュバックしたんです。そしてSYSTEM7の音楽には、『火の鳥』と共通する何かがあるんじゃないか?と、その時に直感で思いました。

――メンバーのお二人と直接会って、音楽を作るという話になったのはいつですか?
moderno絵本手塚:2004年に彼らがアルバム『ENCANTADO』を出して、そのライブツアーで来日した時、たまたま主催者と知り合いだったので、頼んで楽屋で会わせていただいたんです。その時、宮島の話とか、父が漫画家で『火の鳥』という作品を描いていて、あなた達の音楽には同じ「輪廻転生」というテーマとメッセージを感じるので、ぜひ読んでみてくれないか、という話をして、『火の鳥』の英訳本を1冊プレゼントしたんです。その時、彼らは手塚治虫のことを知らなくて、ただ「『アストロボーイ』の原作者だよ」というと「『アストロボーイ』は知っている。『火の鳥』は知らなかった」と。
そして「もし『火の鳥』を読んで何か感じるものがあれば、自分は音楽レーベルをやってるので、コラボレーションして音楽を作らないか」と持ちかけたんです。それから後、来日のたびに会って、食事やお茶をしながら「『火の鳥』を読んだ。面白かった」「あれは何巻まであるのか」なんて話をしているうちに、SYSTEM7自身がすごくこの作品に惹かれて、「ぜひアルバムを作りたい!」と申し出があったんです。
当初私は「一曲ぐらいコラボできればいいかな」と思っていたんですが、逆に彼らから「ぜひ次のアルバムのテーマにしたい。そのくらいこの作品から色んな刺激を受けたよ」と言われ、驚きました。そんなふうに話がまとまったのが、2005年くらいでしたね。

――最初にプレゼントしたのは何編だったのですか?
手塚:えーと、外国人なのでわかりやすいところからと思って、確か「宇宙編」を渡しました。それから彼らは自力で全巻を買い揃えたようです。

――るみ子さんが残りの巻もプレゼントしたのかと思っていました。
手塚:いやいや、あげる前に全部買ってたんですよ(笑)。イギリスに住んでいても、日本のコミックの専門店もあるし、今はネットでも買えるし。ただ最後まで彼らが入手できなかったのが「黎明編」で、手塚プロにも英語版の在庫が1冊しかなくて。それでも「どうしても読みたい」って頼まれてたら、手塚プロの古徳さんが「フランス語版ならあるよ」と提供してくれた。ミケットはフランス人なので、二人ともフランス語版は読めたんです。
他に「『火の鳥』のアニメーションをみたい」と言われたときには、NHKのテレビアニメとか、過去の映画とか、彼らはなかなか入手できないので、こっちで手配しました。

――本当にはまっちゃったんですね
手塚:そう、もう何十回も読んでいて、私たち以上に詳しくて、むしろ教えられることの方が多いですね。
彼らがツアーで京都に行った時、鞍馬山にのぼったらしいんですが、天狗の伝説など、日本古来の伝記や伝説にふれて、とても刺激を受けた後すぐに読んだのが、「鳳凰編」だったんだそうです。そこに描かれた日本人と仏教と神様の関係性などが、ぴったりのタイミングで自分の中に押し寄せる感じがして、鳥肌がたった、とスティーヴは言ってました。
今回のアルバムでは、各編からキャラクターやシーンを抽出して楽曲にしているんですけど、「鳳凰編」だけ抜けてるんです。それは、「鳳凰編」には音楽で表現したい世界観があまりにありすぎて、今回のアルバムには入りきらなかったんだとか。だから、次はぜひ「鳳凰編」をテーマにした曲を作りたい、と言ってました。
彼らとメールをしていると「『火の鳥』に鼻の大きなキャラクターが違う名前で出てくるのはなぜか?」とか「手塚先生は鼻の大きなキャラクターを天狗伝説から発想されているのか?」など、奇怪な質問がきて、私もマニアじゃないので答えられなくて(笑)。なぜこのキャラクターがここに出てくるのか?とか、細かい点が気になるみたいですね。

――そのあたりは漫画を読み慣れていない人の方がひっかかるのかもしれませんね。
手塚:実は私も漫画に慣れてないイギリス人にいきなり『火の鳥』を渡して、はたして読めるかな、という心配はあったんですね。ただ、SYSTEM7のスティーブは60年代からプログレで活躍している人だし、色んな前衛アートに触れてきているだろうから、スイッチは入りやすいだろうと思って。作者が何を訴えようとしているか、受け止める感性はあると思ってました。実際その通りでしたね。それに、ネットで(日本漫画評論家の)フレデリック・ショットさんが書いた評論なんかを読んで、勉強したっていってました。

――ちなみに、他の作品については読まれているんでしょうか?
手塚:『ブッダ』を途中まで読んでいるそうです。それと、『三つ目がとおる』や『アドルフに告ぐ』にも興味があるみたい。ただ、彼らに言わせると、今は『火の鳥』で頭をいっぱいにしたいそうです。今回のアルバムには9曲が入っているんですが、音楽的な発想がまだいっぱい残ってるそうなので、次もまた『火の鳥』をテーマに作るつもりのようです。