先月8日から配信がスタートした、「ブラック・ジャック+TV」。現在放送中のテレビアニメ「ブラック・ジャック」を携帯電話のアニメコミックという違った形で楽しめる、ということで、ファンなら必ずチェックしたい新サービスですが、果たしてこれ、どうやって作っているんだろう? と思っている方も多いはず。そこで、虫ん坊では、制作を担当しているプライムワークス株式会社へお邪魔し、そこでプロデューサーをつとめる増村和代さんにお話を伺いました。

――現在放送されている「ブラック・ジャック」を携帯でもアニメコミックとして見られる、というサービスはとても便利ですが、そもそもこうした形で配信しようというお話になったきっかけを教えてください。
増村:「ブラック・ジャック+TV」の配信を企画する前から、古いアニメの作品をこのような形で配信するサービスはありました。それが好評でしたので、たくさんのアニメコンテンツをお持ちで、なおかつ新しい作品も製作されている手塚プロに提案しました。
 個人的に好きな作品でもある「ASTROBOY 鉄腕アトム」をはじめ、この「ブラック・ジャック」や「リボンの騎士」「三つ目がとおる」などの作品で検討しました。
携帯向けアニメコミックは、デジタルで制作しますので、同じくデジタルで作られた新しいアニメのほうが作りやすく、今テレビアニメで放送している「ブラック・ジャック」をやりましょう、という話になりました。


 そもそも、この携帯電話向けアニメコミックは、どのように作られているのでしょうか? 画面などを見せてもらいながら、増村さんに説明してもらいました。


その1
 DVDのアニメーションのデータをパソコンに取り込み、数秒ごとに画像をキャプチャーしていき、そこから台本のセリフと照らし合わせながら、シーンごとにいい絵を探します。しかし、元は動画なので、瞬きや口の動きによっては、良い絵が切り出せない場合もあり、そのときはもう一度、切り出す秒数の間隔を縮めるなどしてキャプチャーしなおすこともあります。

その2
 台本のセリフを見ながら、どの画像にどのように入れるかを指示していきます。左の画像はちょうどこの作業をしているところです。


↑セリフを入れているところです。吹き出しや描き文字などは原作の線を元に作っています。

その3
 指示に従って、吹き出しや効果音を表す文字を入れていきます。セリフの吹き出しはなるべくキャラクターや絵の重要なところを隠さないように、工夫して入れます。もともと吹き出しを入れるように描かれた絵というわけではないので、絵を邪魔しないように、外枠の黒い部分などをなるべく使うようにしています。
 同時進行で効果音などの描き文字を入れます。これは手塚先生の原作から、サンプルを取り出して作った素材があり、そこから場面にあった文字を入れます。絵を邪魔しないように色を絵柄とあわせるなどの工夫をします。


その4

 最後に、全編を通してチェックして、セリフや内容に抜けているところがないかチェックをして、画像をそれぞれ圧縮し、スクロールなどがある場合はその動きをつけて、携帯電話向けのデータにします。このデータを手塚プロの方にも見てもらい、問題のあるところは修正してOKが出たら完成です。

 

←スクロールなどの動きをつけ、携帯電話向けのデータにします。


――作業は、いったいどれぐらいの人数で作られているのでしょうか?
増村:だいたい一つの流れにかかわってくるのは5、6人ぐらいですが、複数のグループで一つのサービスを担当するので実際には12、3人がかかわっています。
 全体の企画、予算とスケジュール管理をするプロデューサー、指示を出し、仕上がりの確認をするディレクター、それに画像キャプチャーとセリフ指定をする人、フキダシを作る人、描き文字を入れる人、携帯で見られるように作った素材を編集する人などそれぞれの作業を分担して作っています。


↑このような場面では、圧縮率を下げて、きれいに見えるようにしています。


――制作する際、一番気を使われるところ、苦労しているところはどこですか?
増村:やはり画質です。携帯電話で読めるようにするために、画像のファイルサイズを小さくする、「圧縮」という作業を行うのですが、それが赤に弱く、あまり画像を圧縮してしまうと、ピノコの赤いスカートがきれいに出ないのです。そこで、各コマで圧縮率を調整していきます。これがパズルみたいで「このコマで圧縮率を10%減らせたからこの2コマにプラス5%ずつできる!」というように、毎回苦心しています。


――「ブラック・ジャック+TV」の見所を教えていただけますか。
増村:手塚先生の描き文字を忠実に再現した描き文字は、ぜひ注意して見てみてください! 絵を邪魔しないように、目立たないように、また原作のテイストを感じられるように作っています。
 それから、「苦心するところ」とも重なりますが、画質のよさもぜひ皆さんの目で見てもらいたいです。「ブラック・ジャック」は、もともとの画像がきれいで、ブラック・ジャックもピノコも、ちょっとした場面でもとても魅力的に描かれていて、一枚一枚待ち受けにしたいぐらいなんです。切り出しの際もそういったところでは悩むこともあまりないです。

↑描き文字や吹き出しの例。手塚先生専用の画像ライブラリがあり、こういったデータが多数保管されています。その中から場面にあわせてえらんだり、時には新しく作ったりするそうです。


――B・Jの他に、好きな手塚作品を教えていただけますか?
増村:ロマンチックなものが好きなので、「リボンの騎士」や「虹のプレリュード」が好きです。それから、可愛いものも好きなので、「鉄腕アトム」も。はじめの提案で「ASTROBOY 鉄腕アトム」を提案したのも、実は個人的に好きだったから…というのもありました(笑)。
――携帯電話でコンテンツをつくるお仕事の魅力を教えてください。
増村:パソコンや本って、まだ「自分対パソコン」「自分対本」というかんじで、どこかにコンテンツを楽しむ客観的な自分、というのが残っているのですが、携帯電話でコンテンツを楽しむ場合、もっとプライベートな、自分の心に直接働きかけるような感じがすると思います。その点がパソコンとの違いであり、携帯独特の魅力だと思います。携帯電話って、本当に個人でしか持つことができない機械で、待ち受け画像や着信メロディも、完全に自分だけのものとして楽しんでいる方が多いでしょう? そんな機械で、漫画を読むと、ストーリーが直接、心に入ってきて、本で読むのとは違った感動を味わうことができると思います。
 私も、「ブラック・ジャック」はちゃんと漫画で読んでいるはずなのに、携帯で読むとまた泣けてしまったり…、もちろん、漫画としてのストーリーの魅力によるところも大きいと思いますが、また違ったメディアで見る、ということで新しい感動があることは間違いありません!
 まだ、漫画を携帯で読んで見たことがない方は、ぜひ試して見てください(笑)。
――本日はどうもありがとうございました。

(C)手塚プロダクション・読売テレビ