↑右奥から時計回りに
ヒーワン、エンチャン、ラオーバ。どれも美味〜〜!


↑今はもう使われてないが、この座敷で濃〜い面々の集会が行われてた。


↑実に貴重な色紙の数々?!
店の歴史を物語ってます。手塚の色紙もあったが不届きな客に盗まれちゃったんだとか。


↑二代目の黄善徹さんと。初代のお父上は今も現役で厨房に入ってます。

 手塚るみ子さんが案内役となって手塚先生の大好物をご紹介するこのコーナー、7回目の今月は、西新宿にある「台湾料理 三珍居(さんちんきょ)」をご紹介します。都会の真ん中にありながら、一歩店内に入ればいつまでも居座って(飲み明かして?)しまいたくなる…そんな居心地のよいこのお店で、手塚先生が食べていたものとは?

グルメ・ド・オサムシ 7 「台湾料理 山珍居」

 西新宿を少し行ったところに「山珍居」という台湾料理店がある。ここは都内の台湾料理店としては老舗中の老舗で、1947年の創業以来、実にたくさんの文化人や食通に愛され、数々のグルメ番組などで紹介される、知る人ぞ知る有名店だ。そして父もまたそんな常連客の一人でもあった。それというのも「山珍居」は、日本SF作家クラブの発足以来の会合の場所でもあったからだ。
 1963年にクラブが発足してから、この店には実に多くのSF作家をはじめ、漫画家や編集者などが飲んだくれにきていたそうだ。店内にはそんな有名作家の色紙がズラリと飾られている。小松左京、石川喬司、平井和正、辻真先、赤塚不二夫・・・などなど、その数や名前を見る限り、いかにこの店が日本の空想科学の発祥の地であったかと思ってしまう。そして父・手塚治虫の存在感は、当時『鉄腕アトム』の大ヒットもあってか、店の中でもひと際目立っていたそうだ。
 会合ではいつもコース料理を頼むこともあり、エンチャン(煙腸)やラオーバ(老肉)、焼大腸などのこってりした肉料理を、父はよく食べていたという。まだ台湾料理など日本人の口には合いづらい時代に、好奇心旺盛の父をはじめ作家先生方は、香草や薬味の効いた大陸の珍味を楽しんでいたと思う。素材こそ違えども料理の内容は創業以来変わらないという。今回はその中でも父のお好みだった料理=腸詰めのエンチャン、豚肉を煮込んだラオーバ、そして鮪の上身に豚肉をつめた団子のヒーワン(魚丸)を頂くことにした。
 台湾料理というから味の濃いものを想像していたが、どれも実にアッサリしていて、ちょっと意外だった。エンチャンこそ薬味がシッカリ効いてるけれど、脂こってりのラオーバにしても全然しつこさがなく、またセロリのスープというヒーワンは本当に美味しくて、もろ私の好みにヒット!でも何より衝撃的だったのは、ラオーバのスープの味がなぜか子供の頃に食べた、我が家の正月料理の味とそっくりだったってことだ。醤油をベースに豚肉と葱と椎茸を煮込んだ味は、あまりに馴染みがありすぎてビックリ?! 「手塚先生が味を盗まれたかな」と二代目の黄さんは冗談で言ってたが、そんな根拠はないにしても、父がここのラオーバを心から気に入ってたことは確信できる。だって我が家の味なんだから!
 父は一人で食べに来ることもあれば、会合に子供を連れてきたこともあったそうだ。たぶんそれは兄じゃないかと思う。『マコとルミとチイ』にもあるように、兄は父に連れられて宴会の席に参加したことがある。もしそれが「山珍居」であったなら、さぞかし濃いメンバーに囲まれたんだろう。兄の人生もそこで決まったのかもしれない。
(了)



■住所:
 東京都新宿区西新宿
   4-4-16
■営業時間:
平日/12:00〜14:00
     17:00〜23:00
(ラストオーダー22:30)

土曜/12:00〜14:00
     17:00〜22:00
(ラストオーダー21:30)

日祝/17:00〜22:00
(ラストオーダー21:30)

■定休日:月曜日